小羊の悲鳴は止まない

好きな映画を好きな時に好きなように語りたい。

下水道から浮き上がる恐怖(「IT/イット "それ"が見えたら、終わり。」ネタバレ考察)

目次




初めに

こんばんは、レクと申します。
映画「IT/イット "それ"が見えたら、終わり。」について語っていこうかと思います。

ネタバレがございますので、未鑑賞の方はご注意ください。
但し、今回はオリジナルとの比較ではなく、あくまでも今作に触れる内容となっております。


作品概要


原題:It
製作年:2017年
製作国:アメリ
配給:ワーナー・ブラザース映画
上映時間:135分
映倫区分:R15+


あらすじ

静かな田舎町で児童失踪事件が相次いで起きていた。内気な少年ビルの弟が、ある大雨の日に外出し、おびただしい血痕を残して姿を消した。自分を責め、悲しみにくれるビルの前に現れた「それ」を目撃して以来、ビルは「それ」の恐怖にとり憑かれてしまう。不良少年たちからイジメの標的にされている子どもたちも、自分の部屋、学校、町の中など何かに恐怖を感じるたびに「それ」に遭遇していた。「それ」の秘密を共有することとなったビルと仲間たちは、勇気を振り絞り、「それ」と立ち向かうことを決意するが……。
IT イット “それ”が見えたら、終わり。 : 作品情報 - 映画.comより引用


予告編



総評

今回はまず総評として評価をしたいと思います。

端的に、ホラーとしての評価は個人的には低めです。
しかし、恐怖を媒体に少年少女たちが手を取り合って立ち向かう青春冒険活劇として観ると非常に盛り上がる作品かと。

オリジナルのペニーワイズと比べると見劣りするのは仕方ないかもしれませんが、そこを子供たちで十二分にカバーされている。
そして、ホラーという枠に収まらない総じてひとつの作品としての完成度は高いものだと思います。


ただ、不安もあります。
オリジナル版での最も盛り上がる部分を今作前編で出し切っているからです。

つまりは、後半の尻つぼみが後編となり得る可能性もあり、勿論脚色等でエンタメへと改変するであろう後編に課題も残る。

そういった意味でも、後編は気になっています。



ピエロと風船

さて、早速本題へと入っていきますが、タイトルの考察に入る前にペニーワイズの特徴である踊るピエロと赤い風船について考えてみます。


ペニーワイズ
ボサボサの赤髪に赤い鼻といった道化師の出で立ちをした悪魔。対象を威嚇・捕食する際は鋭い牙を剥き出す。古来よりデリーに27年周期で現れ、その都度事故や天災に見せかけては住人を襲っていた。捕食対象は子供であり、相手が恐怖と感じる物の姿に変化する。物体を動かす・幻覚を見せる・神出鬼没など超常的な能力を持ち、殆どの大人には視認する事が出来ない。基本的には多感で夢を持つ子供のみに見え、恐怖を与えるほどに美味になる事から様々な幻術で対象を追い詰める。
Wikipediaより引用

道化師
滑稽な格好、行動、言動などをして他人を楽しませる者の総称。大道芸やサーカスのクラウン (clown) 、中世ヨーロッパの宮廷道化師 (jester)、歌舞伎の道化方、幇間など、世界各地にさまざまな形がある。
「クラウン」は派手な衣装と化粧をし、サーカスなどに登場するコメディアンである。日本では「ピエロ」と呼ばれることも多いが、ピエロはクラウンの一種である。
Wikipediaより抜粋引用


道化師やクラウンよりもピエロの方が日本人としては馴染みがありますね。

クラウンとピエロの細かい違いはメイクに涙マークがあるか否か。
涙のマークは馬鹿にされながら観客を笑わせているがそこには悲しみを持つという意味を表現したものとされています。

そうです。
ペニーワイズは涙のメイクがないんです!

つまり正式にはピエロではなくクラウンですね(笑)



ところで皆さん、○○恐怖症ってお持ちですか?
例えば、高所恐怖症や先端恐怖症などなど。

実際にある恐怖症の中にピエロ恐怖症というものがあります。
文字通り、ピエロに恐怖を抱くもの。
作中ではリッチーがそれでしたね。


そして、風船恐怖症というものもあるのをご存知でしたか?

パンパンに膨らんだ風船は、いつ破裂するか予断を許さないことから、破裂への恐怖感に襲われる心理状態を言います。
そのことから、いつ起こるかわからない予想できないことが不安を掻き立て、風船が破裂する時のような恐怖感を抱くようになる。


そして、赤色にも理由があります。
赤い色というのはプラスのイメージが多いと思います。
情熱的であるとかエネルギッシュであるとか。
しかし、全ての色はプラスのイメージと同時にマイナスのイメージを持つもの。

赤い色の持つマイナスイメージとは
危険攻撃暴力圧迫などなど。


よって、赤い風船は危険で攻撃的な不安を掻き立てるものを表していると考えられます。

ちなみにオリジナルの方では風船は複数色ありました。


子供たちにとってピエロと赤い風船はトラウマのようなもの。
言うまでもなく、恐怖の具現化なんですね。



下水道から浮かび上がる恐怖

さて、作中でも語られた通り、ペニーワイズの住処はデリーの町中に広がる下水道の合流地点にある井戸でした。


恐怖の根源であるペニーワイズが何故、下水道を住処とするのか?

下水道のイメージは汚い水が流れているといったものだと思います。
町中の汚れを落とし溜まっていく雨水や汚染物などが集まる場所。
それと同時に町中の行方不明の子供たちの恐怖が沈み、混ざり合う場所なんです。



一方で、何度も劇中で登場した台詞「浮かぶ」という言葉。

初めは上記で記述させていただいた赤い風船、つまり不安感を表す言葉と捉えていました。
しかし、その「浮かぶ」という言葉は物理的な意味でしたね(笑)


ペニーワイズの見せる"恐怖"に駆られた時、下水道に沈んだ子供たちはなぜ浮かび上がるのか?


井戸から下水道へと足を踏み入れたビルたちが目にしたのは、宙に浮かぶべバリーの姿でした。

物理学の観点から見ると、空中に止まるには引力と斥力が均衡した状態です。
ここで言う引力は重力、斥力は浮力。

人は普段、地に足を付けて生活をしています。
人間が初めて空を飛んだのはアメリカ出身の動力飛行機の発明者、ライト兄弟による有人動力飛行です。
飛行機が宙に浮くのは揚力というまた別のものなのですが、空中で静止することはできません。

重力に逆らって、ジェット噴射などの動力を使い静止することは可能ですが。


オカルト的な話になるのですが、例えば霊体はどうでしょう?
幽体離脱した際に、自分の魂は宙に浮いているといった描写がされませんか?

そう、宙に浮かぶというのはへ近づいたことを暗に意味してるのではないか?
生と死の狭間にいる状態と言った方がわかり易いかと思います。


言わば、生殺しです(笑)
鑑賞中に「さっさと食べればいいのに」なんて思った方はおられませんか?
何度も食べるチャンスがありながらも子供たちを食べることなく焦らします。

理由としては子供たちに恐怖を与え続け、美味しく実るのを待っていたんですね。



ペニーワイズの正体は?

上記にピエロと赤い風船は恐怖の具現化だと記述しました。
ペニーワイズは道化師の風貌をしています。
滑稽な格好、行動、言動などをして、他人を楽しませる(子供たちに恐怖を与える)者なんです。

もっと掘り下げていくと、オリジナルのネタバレ(リメイクでいう、チャプター2のネタバレ)になってしまうであろう内容に触れてしまうので伏せますが、その存在は原作者であるスティーヴン・キングにとっても特別なものなんです。

彼は1947年生まれであり、その少年時代を過ごしたアメリカでは想像を絶する時代でした。
いじめが横行したり、人種差別から人が殺されたり、その事実そのものが揉み消されたり。
そんな経験を基に作られた悪の権化がペニーワイズなんですよね。

つまりは子供たちだけが立ち向かうことの出来る青春時代、思春期の敵、なんです。


大人たちには見えない存在というのも、大人は頼りにできない。
そして頼りにならないということを意味します。

下水道で一旦はペニーワイズを退けたビルたち。
恐怖を乗り越え大人の階段を登り始めた彼らはもうペニーワイズの標的ではなくなるということ。
また27年後にペニーワイズが現れた時、再会すると誓った彼らは負け犬なんかじゃなく勝ち組であり、立派な大人の仲間入りなのだ。

そしてその彼らの誓いは、頼りにならない大人たちからの脱却という意味でのある種のカタルシスのようなものがそこにはある。



終わりに

エディの右腕ギプスに書かれた文字。
「LOSER」が修正されて「LOVER」となっていましたね。

「LOSER」(負け犬)がV(勝利)を収めて「LOVER」(大切な人)を手にする。

文字通り、今作はホラーの枠を超えた青春冒険活劇である。


と無理矢理まとめてみました(笑)

今作のように昔の作品が何かしらのリメイクや続編をとして製作されて話題になること自体は素晴らしいことだと思います。
もしオリジナルをご覧になられてない方がおられましたら是非!


最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。





©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.