小羊の悲鳴は止まない

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壁絵が意味するもの(「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」ネタバレ考察)

目次

初めに

こんばんは、レクと申します。
今日は「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」について語らせていただきます。

この記事はネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題:The Zookeeper's Wife
製作年:2017年
製作国:チェコ・イギリス・アメリカ合作
配給/ファントム・フィルム
上映時間:127分
映倫区分:G


解説

第2次世界大戦中のポーランドワルシャワで、動物園の園長夫妻が300人ものユダヤ人の命を救った実話を、ジェシカ・チャステイン主演で映画化。1939年の秋、ドイツのポーランド侵攻により第2次世界大戦が勃発した。ワルシャワでヨーロッパ最大規模を誇る動物園を営んでいたヤンとアントニーナ夫妻は、ユダヤ人強制居住区域に忍び込み彼らを次々と救出。ユダヤ人たちを動物園の檻に忍びこませるという驚くべき策を実行する。夫婦によるこの活動がドイツ兵に見つかった場合、自分たちやわが子の命も狙われるという危険な状況にありながら、夫婦はひるむことなく困難に立ち向かっていく。アントニーナ役を「ゼロ・ダーク・サーティ」「オデッセイ」のチャステインが、ヤン役をヨハン・ヘルデンベルグがそれぞれ演じ、マイケル・マケルハットン、ダニエル・ブリュールらが出演。監督は「クジラの島の少女」のニキ・カーロ。
ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 : 作品情報 - 映画.comより引用


予告編



六芒星に込められた願いと壁絵

ユダヤ人を救った人物として最も有名なのはシンドラーではないかと思います。
また、ユダヤ人を救った日本人としては杉原千畝が有名ですね。


そして、もうひとりユダヤ人を救った一人の女性がいました。
今回はその一人の女性とその家族を描いた史実です。

アントニーナはヤン・ジャビンスキの妻であり、何百人というユダヤ人を救うために、自らの動物園を利用したとされています。


ヤン・ジャビンスキ
ナチスドイツ占領下のポーランドホロコーストが行われた時代に、勇敢にもユダヤ人を救出したことから『イスラエル国からポーランド人の正義の人』(en)に認定されている。
Wikipediaより引用


さて早速、本題に入っていきます。
アントニーナが自宅の地下室に匿っていたユダヤ人たち。
その中の一人の少女が描いていた壁絵について考えていきましょう。


まず、印象的なのが六芒星ですね。
六芒星ユダヤ人を象徴するものです。


イスラエルの国旗に入っている六芒星

ダビデの星
ユダヤ教、あるいはユダヤ民族を象徴するしるし。二つの正三角形を逆に重ねた六芒星(ヘキサグラム)といわれる形をしておりイスラエルの国旗にも描かれている。

三十年戦争末期の1648年、神聖ローマ帝国の側に立ってプラハを防衛していた民兵軍がスウェーデン軍を撃退した。これを受けたハプスブルク朝のフェルディナント3世は、民兵軍の武勲を嘉して各部隊のそれぞれに旗印を下賜した。

民兵の中にはユダヤ人部隊もあったが、ドイツの宮廷には、ユダヤ人の印としてどんな図柄を使えば良いか知る者がなかったどころか、宮廷ユダヤ人のオッペンハイマー家ですら何のアイディアも出せなかった。そこで、ウィーンの政府はイエズス会に何か良い知恵はないか相談したところ「ダビデ王は楯の紋所にみずからの名前の最初と最後の文字『D』を使ったに違いなく、古いヘブライ文字でDの字はギリシャ文字『Δ』に似た三角形だから、Davidのスペルの最初と最後の『D』の字二つを表す三角形を、互いに組み合わせた形にしてはどうだろうか」というアイディアを得た。こうして、ユダヤ民兵部隊に「ダビデの楯」をあしらった旗が下賜されることになった。



連行される、星のバッジをつけたユダヤ人達。1944年10月、ブダペスト

第二次世界大戦期、ナチス・ドイツはその占領地において、ユダヤ人を識別するための標識として、ユダヤ人に黄色で描いた星型紋様をつけることを義務づけた(黄色のバッジ(英語版))。これは当時"Judenstern"(ユダヤの星)または"Zionstern"(シオンの星)と呼ばれており、"Davidstern"(ダビデの星)とは呼称も表記もされていなかった。ナチス・ドイツが「ダビデの星("Davidstern")」という名前を使っていないのに、戦後の文献では「Zionstern」や「Judenstern」を「ダビデの星」とわざわざ意訳したり、ドイツ語文献の場合は「Davidstern」にわざわざ言い換えをしている。

Wikipediaより引用

六芒星は古代ヒンドゥー教やバアル神崇拝などでも用いられており、ヒンドゥー教では「シャ
コナ」(「調和と抱擁」)を意味します。
神バアルとは人身供犠を求める偶像神として崇められ、悪霊ベルゼブブと同一とされています。

また、六芒星は6つの角、6つの三角形と6角形があることから黙示録の666の預言と関連付けされ、反キリストと獣の象徴であるというオカルト的解釈もあります。

ヒトラー六芒星ユダヤ人に強制的につけさせたのも、バアル神崇拝やオカルト的解釈によるもので、ユダヤ人を侮辱し燃やし尽くすという意味合いからだったと考えられているそうですね。


ホロコーストという言葉も似たような意味合いを持ちます。

ホロコースト
第二次世界大戦中のナチス党率いるナチス・ドイツユダヤ人などに対して組織的に行った大量虐殺を指す。元来はユダヤ教の宗教用語にあたる「燔祭」(獣を丸焼きにして神前に供える犠牲)を意味するギリシア語で、のち転じて火災による大虐殺、大破壊、全滅を意味するようになった。
Wikipediaより引用


話を戻しますが、いい意味で取れない内容もありますが、少なくとも本作における六芒星は希望の象徴ではないかと思うわけです。

上記でも申し上げましたが、「調和と抱擁」という言葉が一番しっくりとくるんですよね。

六芒星は地下室の壁だけでなく、ラストにも動物園の至る所に描かれていました。
まるで輝く星のように、金色の塗料で。
アントニーナたちはこのダビデの星を描くことで、ユダヤ人たちへの敬意を表しているのでしょう。




次に、壁絵に描かれていた内容についても考えていきます。
印象的なのは人間が動物として描かれていた点ですね。

少女ウルシュラによって描かれたピアノを弾くウサギ
これは十中八九、アントニーナとウサギ(ピョートル)でしょう。


以前に映画「ウィッチ」の記事で記載しましたが、ウサギはユダヤ教において不浄な生き物とされています。
カシュルートで食べてはいけない動物のひとつです。
一方で、イースターにおけるウサギは多産であることから、生命の復活と繁栄を願う象徴とされています。

ノアの方舟」で有名なノアは神から「清い動物を7つがいずつ、清くない動物を1つがいずつ」生き延びさせるよう命じられ、この区別は単に人間が神へのささげ物に対して抱いていただけでなく、神によっても価値的に是認されていると考えられています。

また、ウサギに名付けられた「ピョートル」はイエス・キリスト使徒ペトロを意味し、天国と地獄が記されたペトロの黙示録に繋がる。


以上を踏まえて、ナチス政権によるユダヤ人の迫害はある種、不浄な生き物ウサギの立場を意味していると同時に、善悪が神によって裁かれること、ユダヤ繁栄を願う希望の絵なのではないか?

イースター・バニー
しばしば服を着た姿で表現される。伝承によれば、このウサギは、カラフルな卵やキャンディ、ときにはおもちゃをバスケットに入れて子供たちの家に届けるという。祝日の前夜に子供たちに贈り物を届けるという点では、イースター・バニーはサンタクロースに似ている。
Wikipediaより引用

これにより、ユダヤ人を救い匿うアントニーナという女性をイースターにおけるウサギ、つまりは上記に記した希望の象徴として表しているのではないでしょうか?



総評

カメラワークを外すことで残虐シーンもあまりなく、暗い話でも万人に見易い構成となっています。
その一方で万人受けに仕上がっているために少々薄味な部分も多々ありますが、本作品が見せたい部分、物語の語る部分としてはかえって良かったのではないかと考えています。


直接的な描写はこのシーンくらいだと思います。
唯一、殺害されたユダヤ人2名。
すべてを救うことの出来ない非情さを描いた重要なシーンでもありますからね。


副題の「アントニーナが愛した命」とは
動物園の動物であり、匿ったユダヤ人であり、自分の家族でもある。
動物が好きな人に悪い人はいない…かどうかは分かりませんが、悲しい物語の中でも優しい気持ちになれる。

戦争とは人と人が争うもの。
そんな認識が強いと思いますが、戦争で失われる命はなにも人間だけではない。
動物の視点から戦争というとモノを描き、人としてどうあるべきかを問うこの作品は非常に良い映画でした。



終わりに

瞳から零れ落ちる涙を見せるジェシカ・チャステインの自然な演技に魅了されてしまいました。

女神の見えざる手」とはまた違った女神っぷりを見せてくれましたね。

最後までお読みくださった方、ありがとうございました。




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