小羊の悲鳴は止まない

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不遇への葛藤と愛を見つけた希望の物語(「プレシャス」ネタバレ感想)

目次




初めに

こんばんは、レクと申します。
今回は映画「プレシャス」について語っています。
フォロワーさんからのオススメ映画を観た第二弾になります(笑)

この記事はネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題:Precious
製作年:2009年
製作国:アメリ
配給:ファントム・フィルム
上映時間:109分
映倫区分:R15+



・解説

1987年のニューヨーク・ハーレムで、両親の虐待を受けながら希望のない日々を生きる黒人少女プレシャス。レイン先生に読み書きを習い、つたない文章で自分の心情を綴り始めたプレシャスは、ひたむきに人生の希望を見出していく。サファイアの小説「プッシュ」を、「チョコレート」で製作を務めたリー・ダニエルズが映画化。マライア・キャリー、レニー・クラビッツ、ポーラ・パットンらが出演。2009年のサンダンス映画祭でグランプリ、第82回アカデミー賞助演女優賞と脚色賞を受賞した。
プレシャス : 作品情報 - 映画.comより引用



・キャスト






・予告編





人生の選択

16歳のプレシャスは父親からの性的虐待で二度目の妊娠。
母親からも逆恨みの虐待を受け、友達や恋人も出来ず、読み書きもできない。
妊娠を理由に退学させられたプレシャスはここで人生のターニングポイントに差し掛かる。



一つ目の重要な選択は
教育を受けること。

プレシャス自身の本当の想いは分からない。
しかし、子は親を選べないという自分の不遇を愛する我が子たちにして欲しくないという母性の目覚めを自分は感じました。

その為には先ず自分がちゃんとした生活を手にする必要がある。
愛を知らない齢16の女の子が、学校に通いつつ産まれてきた子ども二人を育てる。
非常に困難で突きつけられる現実、大きな壁、障害は多い。


そして、もう一つの重要な選択が
母親との離別。

プレシャスの母親だって初めは心から娘を愛していたんです。
我が子に名付けたその名前こそがそれを証明しています。
宝物(プレシャス)

この作品で、恐らく誰もがよく思わない母親という存在。
娘に対する虐待は決して許せない問題であるが、彼女自身も被害者であることは忘れてはならない。
彼女もまた夫からの愛を知らずに人生を歩んできたのだ。

プレシャスはそんな母親との離別を決意し、我が子へ愛を注ぎ、同時に愛を知ることとなる。
自分を本当の意味で愛してくれる人の存在は大きい。
生きる希望にもなるし、自分の存在意義にもなりうる。
同時に、親が子を愛することは当たり前ではなく、時には別の愛する人のために捨て置くことも有り得るのだ。


1980年代、経済格差の渦中にあったアメリカでは、貧困の中に疎外された男性たちのDVや性的虐待などの暴力が蔓延っていました。
原作者のサファイア自身もDVのある環境に育っていたようで、今作の監督てをあるリー・ダニエルスは原作を読んで深く感心を寄せたという。
母親役のモニークも兄からの性的虐待を告白していることからも、この役作りに徹したモニークには脱帽です。

「プレシャス」で第82回アカデミー助演女優賞に輝いたモニークの兄ジェラルド・アイムスが、4月19日放送の米ABC「オプラ・ウィンフリー・ショー」に出演し、子どものころのモニークに性的虐待を行っていたことを告白した。
アイムスは、自身が13歳、モニークが7歳のころから1、2年にわたり性的虐待を行ったと明かし、「本当にすまないと思っている」と涙ながらに謝罪。かねてモニークは、兄から性的虐待を受けていた過去をメディアに語り、「プレシャス」で演じた鬼のような母親役を、その経験をもとに演じたとコメントしていた。
オスカー女優モニークの実兄、性的虐待を告白 : 映画ニュース - 映画.comより引用




変化と成長

大きく分ければこの上記2つがプレシャスの重要なターニングポイントでした。

一方で、人生とは無数の選択肢の上に成り立ちます。
勿論、この劇中にも様々な選択肢がありました。
その中でも大きく関わったのはフリースクールで出会った生徒たちとレイン先生です。


あの時、校長先生が自宅を訪ねて来なければ。
もし、プレシャスが校長先生の言葉に耳を傾けなければ。
翌朝、フリースクールへと足を運ばなければ。
・・・etc.

その中でも印象に残ったポイントだけ挙げていきます。



・レイン先生の質問

フリースクールでの初めての自己紹介。
名前、出身地、得意なこと、好きな色を教えて。


一度はパスしたプレシャスは勇気を振り絞って自己紹介をします。

人は名前も、生まれる場所も、肌の色も選べない。
それでも好きな色は自分で選ぶことが出来る。
得意なことを伸ばすことは自分の自信へと繋がる。

人生とは自分の選択肢で歩んでいくものなんだ。
というメッセージとも取れる非常に素晴らしい描写がさり気ない演出のひとつとして落とし込まれているんですね。



・プレシャスの妄想

冒頭から何度か劇中に挿入されるプレシャスの妄想。
こうありたいと願う夢が可視化される瞬間は色鮮やかで表情も明るく煌びやかな演出がなされています。

この現実と夢との対比は、不遇な彼女を通した現実世界は甘くないという痛烈な皮肉にも、現実逃避にも思える妄想はある種の前向きな姿勢の表れにも取れる。

また、この妄想や表情からも、プレシャスは人生のすべてにおいて自己憐憫に浸ってはいないということが伺える。
そして、物語を終始取り巻く暗く落ちていくような雰囲気を少しでも和らげる観客への救いにも思えてならない。
ポジティブな人を見ていると何処か元気が出てくるアレに近い(語彙力)。



・プレシャスの心境の変化

フリースクールへと通う前は自分の都合のいいように妄想をしていたプレシャス。
思い出してほしいのですが、身支度をする鏡に映った自分の姿が白人の金髪女性として演出されています。
上記に記述した通り、プレシャス自身のこうありたいという理想像。


しかし、母親との対談の場に歩む前、ロビーで映る自分自身の姿は金髪女性ではなくありのままの自分自身でした。

妄想することで現実から目を背けてきた彼女自身を払拭する決意の表れ、現実と向き合ったこと、現実と向き合う強さを持ったことを意味するのではないかと思う。

フリースクールが人生の転機となったのはこれ以上説明するまでもありませんが、この時にプレシャスが自分のありのままの姿を受け入れたこと。
そして、自分の人生を歩み出したことを示唆させます。

勿論、転機を見逃さないことも必要ですが、その転機に乗っかることが出来る自己選択も重要なのではないだろうか。


いつか子どもに読み聞かせると語った絵本。
フリースクールで習ったことは読み書きだけでなく、人間としても母親としても成長させたのでしょう。



終わりに

プレシャスは過去のしがらみを断ち切った。
一見、ハッピーエンドにも見えるラストでしたが、プレシャスはやっとスタートラインに立てたんです。

この先、我が子が成長し、自分の出生について知る機会もあるでしょう。話さなければいけないことも沢山あるでしょう。
その時に、どう向き合っていくのか。
ただ言えることは、プレシャスにとって我が子は宝物です。

良い母親として我が子へ愛を注いでやってほしい。
そして二人の子どもにとっても、プレシャスは母親としては勿論のこと、かけがえのない存在で在り続けてほしい。
そう願わざるを得ないラスト。


重くのしかかる題材の中に、諦めないことで自ら見出した光を掴む、そんな希望に溢れた未来を想像できる非常に感慨深い作品でしたね。
最後までお読みくださった方、ありがとうございました。




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