小羊の悲鳴は止まない

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母親である前にひとりの女性(「タリーと私の秘密の時間」感想考察)

目次




初めに

こんばんは、レクと申します。
今回は「タリーと私の秘密の時間」について語っています。

前半はネタバレなし。
後半はネタバレあり。
で書かせていただいてます。



作品概要


原題:Tully
製作年:2018年
製作国:アメリ
配給:キノフィルムズ
上映時間:95分
映倫区分:G


・解説

「JUNO ジュノ」「マイレージ、マイライフ」のジェイソン・ライトマン監督が、「ヤング≒アダルト」でもタッグを組んだシャーリーズ・セロンを再び主演に迎え、3人の子を育てる母親と不思議な魅力をもったベビーシッターの女性との交流や絆を、コミカルかつハートウォーミングに描いたドラマ。仕事に家事に育児にと何でも完璧にこなしてきたマーロだったが、3人目の子どもが生まれて疲れ果ててしまう。そんなマーロのもとに、夜だけのベビーシッターとしてタリーという若い女性がやってくる。自由奔放でイマドキな女子のタリーだったが、仕事は完璧で、悩みも解決してくれ、マーロはそんなタリーと絆を深めることで次第に元の輝きを取り戻していく。タリーは夜明け前には必ず帰ってしまい、自分の身の上を語らないのだが……。セロンがマーロ役を演じ、「ブレードランナー 2049」などで注目されるマッケンジーデイビスがタリーに扮した。脚本を「JUNO ジュノ」「ヤング≒アダルト」のディアブロ・コーディが手がけた。
タリーと私の秘密の時間 : 作品情報 - 映画.comより引用



・予告編





役作りと演出

この作品の素晴らしいところは何と言ってもシャーリーズ・セロンの役作りと演技。
そしてジェイソン・ライトマン監督の演出。
ヤング≒アダルト」でもこの二人はタッグを組んでますね。

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今作では少し重い話を優しく包む込むような映像や音楽で演出されています。


台詞ひとつひとつもジョークめいた軽いコメディが散りばめられていて軽快。


セロンは育児に疲れた母親を体現するため体重を約18キロ増加して役に挑んだそうで、前出演作「アトミック・ブロンド」のセロンとは全く体型が違う。
彼女の役作りは「モンスター」で13キロの増量にも驚かされたが、本当に凄い。

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子育てに苦悩するという脚本は「ヤング≒アダルト」も担当したディアブロ・コーディの実体験だそうですね。

物語が生まれたきっかけは、脚本を執筆したディアブロ・コーディ(「JUNO ジュノ」など)の実体験。3人目の子どもを出産した直後、すでに2人の幼い子どもに時間とエネルギーを費やしていたコーディは、夜の10時から翌朝までの夜間ベビーシッターを雇っていた。その際のことを「(シッターは)救世主のように思えたわ」と語っており、今作では「分娩後の気持ちの落ち込み」と「育児に疲弊した母親の現実」、そしてそれを癒す数々のエピソードをつづっている。
“お疲れママ”を助ける“救世主”は誰!? C・セロン主演「タリーと私の秘密の時間」場面写真 : 映画ニュース - 映画.comより引用


で、どの演出が素晴らしいのかと言うとですね…
全てです!と言いたい。

母親の苦悩、父親の無関心さ、子供の自由奔放さ、他人の無関係さ、ベビーシッターの有難み、少しずつ心を開いていく様、家族に笑顔が戻る瞬間。
どのシーンを切り取っても素晴らしいの一言に尽きる。
いや、一言では言い表せない素晴らしさが詰まってます。

正直なところ、自分は子供もいなければ未婚であり、夫婦生活は疎か子育てに対する苦悩も想像でしか出来ません。
そして、子供の頃の記憶なんて曖昧で。
私情ながら家は母子家庭であり、どれだけ母親に迷惑を掛けてきたのか、すべてを分かるのは難しい。


そんな分からないなりにも、この映画のセロンを見ていると育児というものの難しさと苦悩、抱える問題が見えてくる。
それでいて語りすぎない演出が成されているんです。

全てを台詞で説明しなくとも伝わってくる。
それは感情移入とセロンの現実味ある役作り、演技の賜物ではないだろうか。

妊娠によるボディラインの崩れ、目の下のクマ、母乳、ここまでリアルを追求されたらもう出産後の母親にしか見えないでしょう(笑)




さて、ここからはいつも通りひとつの事を掘り下げつつ考察していきたいと思います。

この先はネタバレとなっております。
未鑑賞の方はご注意ください。






夢に見たものとは?

タリーの存在や脚本、これは恐らく他の方も感想などに挙げておられると思うので自分は夢について考察していこうと思っています。

作中で幾つか夢の映像が流れましたよね?
マーロの夢とは一体何を表しているのか?を考えてみました。


夢は大きく分けて二種類。
海の中の映像と現実的な映像。

海の中は終盤の事故で川へと落ちたシーンにも繋がりますが、他にも幾つか意味があると思います。


先ず、海が意味するもの。
夢占いによると

海の夢がおもに象徴するのは以下のようなこと。

・母親・母性
・豊さ
・潜在意識(思考のクセ)
・精神状態や体の状態
・出会い・妊娠など恋愛に関すること

全ての生命の源である海は、私たちに様々な恩恵を与えてくれます。
海水が蒸発して雲になり、雨を降らせれば恵みの雨となる。緑や生物など生命を維持していくために必要なものですよね。
人間の体の中にも海と同じようなものが存在していて、それはお母さんのお腹の中です。
誰もがお母さんのお腹の中にいる事を経験していて、「海に行くと落ち着く」このような感覚を感じたこともあるのではないでしょうか。
このように海は全ての源泉・源と言っても過言ではありません。
ですから、人間が生きていくうえで生じる問題や、嬉しい出来事を幅広く象徴するのが海の夢だと捉えてください。

【夢占い】海の夢!海辺・海岸・波など夢の意味を幅広く解釈 | 夢占いで心模様を洗い出すより引用

海中はお腹の中。
つまり新たに生まれてくる羊水に包まれた胎児のメタファー。
もうひとつは、新たな出会い。生まれてくるミアのこと。
そして、ベビーシッターのタリーとの出会いを示唆させるもの。


では人魚が意味するものとは?
空想上の生き物である人魚は、夢占いでは現実逃避したいという願望を表しているそうです。

人魚が海で泳ぐ夢は、夢占いでは女性らしさの発揮や、母性が高まっていくことを暗示します。人魚が泳ぐ夢は才能の開花や生命力の高まりを意味しますが、海は母性やかさの象徴です。
穏やかで美しい海の中を泳ぐことで、これまで以上に生活が充実してくることが考えられます。また結婚している人がこの夢を見た場合には、妊娠を暗示することもあります。
人魚の夢占いの意味15選|泳ぐ/助ける/死ぬ/食べる/自分/人間になる | Cutyより引用


人魚の夢もまた、母性の高まり、妊娠を暗示しているようです。




次に夢の中で、車中でジョナが二人現れた理由について考えていきます。

夢占いで子供の夢は、「あなたの側面・あなた自身・育むコトやモノ・可能性・不安の種か、可能性の種か?」を意味します。

子供は誰かと血を分けた存在。
夢の中に登場した子供は、実際に子供がいない人が夢を見た場合でも、あなたと血を分けた存在なんです。
ですから、子供の夢は、あなたの側面であって、あなた自身をあらわすこともあります。

また、子供は放っておくことができず、手のかかる存在。
育むべき、「コトやモノ」全般を象徴するものと捉えてください。
愛を育むことを意味するかもしれませんし、自分の魅力や才能かもしれません。あなたがこれから育て培っていくものを暗示する場合があります。

また実際の子供と同じように、育むことによって、その先には可能性が広がることも。子供の夢は可能性を象徴することがあります。
一方で、子供につきまとうものは、不安です。
子供はとても手がかかりますよね、放っておくことはなかなか難しいです。
子供の夢を見た場合は、あなたのなかに絶えずつきまとう不安のようなものを象徴することもあります。

【夢占い】子供の夢17選!自分に子供がいる夢・話す・遊ぶ・抱っこなど | 夢占いで心模様を洗い出すより引用



正直、ジョナはマーロにとって可愛い我が子であると同時に悩みの種でもありました。

これから育て培っていくものを暗示。
絶えずつきまとう不安の象徴。
そして、自分自身。つまりはマーロとタリー、二人の関係を示唆するもの。



母親となったマーロと対比するように演出されていた母親になる前のマーロ(タリー)。
最後の夢に人魚姿のタリーが現れたこと。
このことからも、水中に沈む車内からタリーがマーロを助け出した描写は育児に疲れた母親への精神的な救いを意味していると考えられます。

そして
これらの夢の共通点は母性の高まり、愛を育むこと。
すべては"暖かい家庭を築く"というラストシークエンスへ繋がる。



女性は母親になると我が子の為にと自己犠牲も厭わない状況に陥る。


タリーと私の秘密の時間」とはそんな自分自身と向き合った時間。
そして、ワンオペ育児で追い詰められていたマーロの苦悩からの解放、つまりは夫の育児への理解。
その為に費やした時間なんだと。

何度も言いますが、これらを台詞ではなく演出で分かりやすく魅せたところが本当に素晴らしいんですよ!



終わりに

あくまでも独身男性目線でしか見れないので、本当の育児の大変さは分からないのですが、分からないなりに感じたものは多々ありました。


完璧な人間なんていないんです。
完璧な母親を求めちゃいかん。
そして、母親である前に、ひとりの女性なんですよ。

母親視点で描かれた映画のようで、実は世の中の父親に対するメッセージが込められた作品なんですよね。
お互いに足りないところを補い合うのが本来の夫婦、家族の在り方なのだ。

ということで、女性の社会進出が進行している現代で、父親の育児協力も必要だという認識がもっと社会に広まればいいなあと思う作品でした。


お読みくださった方、ありがとうございました。





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