小羊の悲鳴は止まない

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歴史を作る全ての女性に対する賛美(「バハールの涙」ネタバレなし感想)

目次




初めに

こんばんは、レクと申します。
今年初の更新ということで・・・

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。(遅)

今年も不定期ながら更新していきます。



さて、今日は「バハールの涙」について語っています。

この記事は物語の核心に迫るネタバレはありません。
いつものような考察記事ではなく、前情報として知っておいた方がいい事と当管理人が感じたこと、思ったことをそのまま綴っています。



作品概要


原題:Les filles du soleil
製作年:2018年
製作国:フランス・ベルギー・ジョージア・スイス合作
配給:コムストック・グループ、ツイン
上映時間:111分
映倫区分:G


・解説

「パターソン」のゴルシフテ・ファラハニが、捕虜となった息子の救出のためISと戦うこととなったクルド人女性を演じるドラマ。「青い欲動」のエバ・ウッソン監督が、自らクルド人自治区に入り、女性戦闘員たちの取材にあたって描いた。弁護士のババールは夫と息子と幸せな生活を送っていたが、ある日クルド人自治区の町でISの襲撃を受ける。襲撃により、男性は皆殺しとなり、バハールの息子は人質としてISの手に渡ってしまう。その悲劇から数カ月後、バハールはクルド人女性武装部隊「太陽の女たち」のリーダーとして戦いの最前線にいた。そんなバハールの姿を、同じく小さな娘と離れ、戦地で取材を続ける片眼の戦場記者マチルドの目を通して映し出していく。2018年・第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品。

バハールの涙 : 作品情報 - 映画.comより引用



・予告編




予備知識として

ISはヤズディ教徒を虐殺するためにイラク北部を侵攻。
約50万人のヤズディ教徒が他国へ脱出、逃げ遅れた男性は殺害され、多くの女性と子ども達が拉致された。

この出来事は事実である。


この映画の出来事はそんな悲劇を基に着想を得て作られたもので、エヴァ・ウッソン監督自身も逃げ出してきた女性たちの証言を得るためにクルド人自治区の前線と難民キャンプへ足を運んでいます。



ゴルシフテ・ファラハニが演じた主人公バハールは、監督がそこで出会った彼女たちの証言から作り上げられたもの。

2018年にノーベル平和賞を受賞し、自らも性暴力や虐待の被害者として世界に訴えたシンジャル出身ヤズディ教徒のナーディヤ・ムラードを想起させる。


ナーディーヤ・ムラード・バーシー・ターハー(Nadia Murad Basee Taha)
ヤズィーディー教徒の人権活動家。1993年、イラクのスィンジャール(英語版)近くにあるヤズィーディー教徒のコミュニティ、コジョ村(アラビア語: كوجو)生まれ。ノーベル平和賞候補に名前が挙がり[4][5]、2016年9月16日に人身取引に関する国連親善大使に就任した。

ナーディーヤ・ムラード - Wikipediaより引用


エマニュエル・ベルコが演じた女性記者マチルダのモデルは戦地で片目を失った隻眼のジャーナリストのメリー・コルヴィンと、文豪アーネスト・ヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者として1936年から活動したマーサ・ゲルホーンとのことです。

メリー・コルヴィン(Marie Catherine Colvin)
1956年、アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドに生まれる。エール大学を卒業後、UPI通信を経て、1986年にサンデー・タイムズに移籍。レバノン内戦や第1次湾岸戦争チェチェン紛争東ティモール紛争など世界中の戦場や紛争地などの危険な取材を重ねる中、2001年のスリランカ内戦の取材時に左目を失明。その後、心的外傷後ストレス障害PTSD)を負いながらも現場復帰し、その際に付けるようになった黒い眼帯は彼女のトレードマークとなった。

2012年2月22日、シリア内戦が起きていたシリアのホムスにて、反政府勢力側の取材中に政府軍の砲弾を受けて死亡。56歳。
2018年、彼女の生涯を描いた映画『ア・プライベート・ウォー』が制作され、ロザムンド・パイクがコルヴィンを演じた。

メリー・コルヴィン - Wikipediaより引用

『私が愛したヘミングウェイ』(原題:Hemingway & Gellhorn)は、2012年、HBO制作のアメリカ合衆国のテレビ映画。

20世紀のアメリカ合衆国を代表する文豪アーネスト・ヘミングウェイと彼の3番目の妻となった戦時特派員マーサ・ゲルホーン(英語版)との恋愛をスペイン内戦や第二次世界大戦を背景に描いた作品。ヘミングウェイクライヴ・オーウェン、ゲルホーンをニコール・キッドマンが演じた。

私が愛したヘミングウェイ - Wikipediaより引用


女性監督でもあるエヴァ・ウッソンはこの映画を製作し戦場をリアルに描くことにあたって、このように語っています。

シナリオを書いているときから映画の完成までのすべてのプロセスにおいて、さまざまな人たちにアドバイスを求めました。フランス人の戦場ジャーナリストのグザヴィエ・ムンズはそのひとりで、私は1年にわたって彼から話を聞きました。また、クルド人の元兵士のサムからは、武器の種類や扱い方から、兵士たちが夜寝るときに銃をどこに置くかといったことまで、戦場にまつわるすべてを教わりました。
映画の冒頭に3人の戦場ジャーナリストが出てきますが、そのひとりをグザヴィエ自身が演じています。撮影の初日、彼はサムに言いました。「なんだかちょっと胸騒ぎがする。この撮影現場にいるとまるでクルディスタンにいるような気分になってしまう」と。サムは、「君もか。僕はいま、無意識に地雷を探していた」と答えたそうです。実際に戦地にいた彼らがそんなふうに反応したことに私は凄く驚いたと同時に、安堵もしました。現実に即した形で戦場を表現するのにひとまず成功したわけですから。

https://www.vice.com/jp/article/zmaby5/les-filles-du-soleilより引用




感想

捕虜となった女性たち。
"女性という表現が真実ではない"という言葉が包含する重み。

この映画は決して強い女性を描いたものではない。
バハールを中心に何故戦わざるをえない状況に陥ったか、を過去と現在で壮絶に描いている。


人としての尊厳を奪われ、それでも生き抜くために、家族のために戦うことを選択せざるを得なかった女性戦闘員の意志。
真実を伝え続けるべく、観客に代わって戦場の最前線に立ち、数々の悲劇を見てきた女性ジャーナリストの意志。

「バハールの涙」は普遍的なもので、悲劇に抗い戦い続ける母への讃歌、歴史を作る全ての女性に対する賛美、そして我々観客に真実を届ける映画です。



また、淡々とした時間の流れが、緊迫した状況と過酷な環境を克明に表し、息づかいや鼓動にも似た音が不安を煽る演出。

この映画を観ていて、戦場で自分の弱さを感じるのは何故か?ということを理解することが重要であるようにも映る。
何故ならば、弱さを知ることで強くなれる、強くなろうとすることが出来るからだ。

それを表現されたのが、立場は違えど似たような境遇にあった女性ジャーナリストのマチルダと女性戦闘部隊リーダーのバハール。

強さと弱さの両方を表現することがこの映画で最も重要な点だったと思う。



人が信じたいのは夢や希望。悲劇から必死に目を背けたがる。

人は他人に無関心だからこそ、真実を語り訴え続ける必要がある。


人は楽しい夢や未来への希望は何度でも観たいと思うが、真実はワンクリックで消される。

たとえ関心がないわけではなくとも、安全な国日本で暮らす我々は、このような悲惨な出来事でさえもニュースで流れる映像くらいしか受け取らない。

だからこそ、こういう映画を観るべきではないのだろうか。
もし、この映画の内包する何かしらのメッセージが伝わったとしたら、それは自由を手にするために悲劇に抗う女性たちが何かを残せたということになるのではないか?

感情移入出来なくてもいい。
共感出来なくてもいい。
お金を払い劇場で観ることに、このような悲劇に目を向けることに意味があると思う。



バハールの流した涙が彼女の抱えた背景を見せる。
是非、劇場で"バハールの涙"の意味を感じてもらいたい。



終わりに

と、ここまで感じたままにダラダラと書き綴ったわけですが、言葉で語るよりも実際に観て感じてほしいというのが本音です。

正直、簡単に纏めたら母への讃歌と女性賛美の映画なんですが、込められた想いに鑑賞後は何も言えない状態でした。
どんな言葉ですら安っぽくなってしまうんじゃないかって。

全てが劇中で語られています。
何度も言いますが、劇場で観て、感じてほしい映画です。
是非、劇場で!




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