イ・チャンドン監督3作品(「バーニング 劇場版」「ペパーミント・キャンディー」「オアシス」感想)
目次
初めに
おはようございます、レクと申します。
今回は『バーニング 劇場版』のイ・チャンドン監督が手掛けた素晴らしい傑作、『ペパーミント・キャンディー』と『オアシス』について他の韓国映画も混じえながら語っています。
この記事にネタバレはありません。
バーニング 劇場版
(C)2018 PinehouseFilm Co., Ltd. All Rights Reserved
原題:Burning
製作年:2018年
製作国:韓国
配給:ツイン
上映時間:148分
映倫区分:PG12
解説
「シークレット・サンシャイン」「オアシス」で知られる名匠イ・チャンドンの8年ぶり監督作で、村上春樹が1983年に発表した短編小説「納屋を焼く」を原作に、物語を大胆にアレンジして描いたミステリードラマ。アルバイトで生計を立てる小説家志望の青年ジョンスは、幼なじみの女性ヘミと偶然再会し、彼女がアフリカ旅行へ行く間の飼い猫の世話を頼まれる。旅行から戻ったヘミは、アフリカで知り合ったという謎めいた金持ちの男ベンをジョンスに紹介する。ある日、ベンはヘミと一緒にジョンスの自宅を訪れ、「僕は時々ビニールハウスを燃やしています」という秘密を打ち明ける。そして、その日を境にヘミが忽然と姿を消してしまう。ヘミに強く惹かれていたジュンスは、必死で彼女の行方を捜すが……。「ベテラン」のユ・アインが主演を務め、ベンをテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のスティーブン・ユァン、ヘミをオーディションで選ばれた新人女優チョン・ジョンソがそれぞれ演じた。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。
バーニング 劇場版 : 作品情報 - 映画.comより引用
村上春樹原作、そしてイ・チャンドン監督8年ぶりの新作ということで話題を呼んだ今作。
自分も今年の2月に『バーニング 劇場版』を観てきました。
村上春樹の短編小説原作『納屋を焼く』を踏襲するようなメタファーの演出とラストの改変が光るイ・チャンドン監督最新作です。
ネタバレありの感想はこちら。
正直なところ、「バーニング 劇場版」は好きか嫌いかと言えばそこまで好みではありません。
しかし、鑑賞後数日経っても何故か余韻が消えないんですよ。
後からじわじわくる自分にとって不思議な映画です。
『バーニング 劇場版』を観るまではイ・チャンドン監督作は『シークレット・サンシャイン』しか観ていませんでした。
改めて、イ・チャンドン監督はすげぇな…と感心した次第であります。
そして4月、『オアシス』と『ペパーミント・キャンディー』のイ・チャンドン二本立てという素晴らしい組み合わせで鑑賞して参りました!
フォロワーさんが腰を抜かすほどの作品、どれほどのものかと、ハードルは上げ過ぎす気軽にいつもの感じで観てきましたが…
2作とも素晴らしかった!
『オアシス』は
オールタイム・ベストを更新しました!!!
ひっさしぶりですね、こんな超絶大傑作はっ!!!
その後に観た『ペパーミント・キャンディー』も傑作なんですが、その傑作が霞んでしまうほどの超絶大傑作!
というわけで、まず『ペパーミント・キャンディー』から語っていきます。
ペパーミント・キャンディー
EAST FILM&NHK
原題:Peppermint Candy
製作年:1999年
製作国:韓国・日本合作
配給:ツイン
日本初公開:2000年10月21日
上映時間:130分
解説
韓国現代史を背景に1人の男性の20年間を描き、韓国のアカデミー賞である大鐘賞映画祭で作品賞など主要5部門に輝いた人間ドラマ。「オアシス」「シークレット・サンシャイン」のイ・チャンドン監督が1999年に手がけた長編第2作。99年、春。仕事も家族も失い絶望の淵にいるキム・ヨンホは、旧友たちとのピクニックに場違いなスーツ姿で現れる。そこは、20年前に初恋の女性スニムと訪れた場所だった。線路の上に立ったヨンホが向かってくる電車に向かって「帰りたい!」と叫ぶと、彼の人生が巻き戻されていく。自ら崩壊させた妻ホンジャとの生活、惹かれ合いながらも結ばれなかったスニムへの愛、兵士として遭遇した光州事件。そしてヨンホの記憶の旅は、人生が最も美しく純粋だった20年前にたどり着く。2019年3月、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて、4Kレストア・デジタルリマスター版が日本初公開。
ペパーミント・キャンディー : 作品情報 - 映画.comより引用
“韓国のアカデミー賞”5部門制覇。
アッバス・キアロスタミ監督が「本当に素晴らしい映画を観た!」と絶賛し、韓国のアカデミー賞である大鐘賞5部門を独占した監督2作目となる伝説の傑作『ペパーミント・キャンディー』。
まずはTwitterの感想から。
「ペパーミント・キャンディー」観た。
— レク (@m_o_v_i_e_) 2019年4月1日
男の人生は如何にして壊れたのか?
現在から過去へと遡っていっていく回顧録にも関わらず、視点を変えれば一人の男が愛を取り戻していく人生譚にも映る。
線路を人生に準え、その終着駅からの巻き戻しは走馬灯のように美しく、ペパーミントのように甘くない。 pic.twitter.com/gx9rf2yFXJ
絶望し、発狂しながら自殺を試みた主人公キム・ヨンホ。
彼の人生は如何にして壊されたのか?
線路を人生のメタファーとして、巻き戻すように彼の人生を振り返っていく回顧録。
壮絶。
心に留まるというよりも、時間を置く事にじわじわとくるこの感覚は正に『バーニング 劇場版』のようで、それでいてインパクトの強い作品です。
時系列は1999年から1979年へ、過去へと遡っていっていく回顧録にも関わらず、見方を変えればキム・ヨンホが愛を取り戻していく人生譚にも映る。
作中に幾度となく語られる"人生は美しい"という台詞。
果たして、人生とは美しいものなのだろうか?
なんと言っても、ソル・ギョングの演技。
彼の演技力には脱帽です。
特にソル・ギョングの演技が目立っていたというわけではないのですが、犯人の行動の監視を専門とする特殊犯罪課を描いた『監視者たち』でも良い役どころを演じ、上手い立ち回りを見せています。
今年公開の『22年目の記憶』。
秘密裏に行われようとしていた初の南北首脳会談を背景に翻弄されていく男を描いたこちらの作品。
体格の違う金日成の影武者を演じきったその姿は正に金日成そのもの。
舌を巻くほどの高い演技力を見せつけられました。
恐らく、ソル・ギョングは韓国俳優の中でもトップクラス。
『22年目の記憶』は『ペパーミント・キャンディー』で韓国政府、国家によって人生を狂わされた男を演じ切った経験、積み重ねてきた俳優人生の全てが詰まっていました。
イ・チャンドン監督の采配の素晴らしさも当然なのですが『ペパーミント・キャンディー』がソル・ギョングの演技の原点ではないかと思う程である。
少し逸れますが、南北の緊迫状態をエンタメとして描き切った『鋼鉄の雨』も必見。
Netflixオリジナル作品です。
また、『ペパーミント・キャンディー』でも描かれた韓国政府の黒歴史、光州事件。
その目撃者としてタクシー運転手視点で描かれた『タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜』。
そして、その後に起こった民主化闘争の裏側を描いた『1987、ある闘いの真実』。
こちらでもソル・ギョングは良い演技をしているんですよ。
このように、韓国映画は自国の汚点を時代背景としてしっかりと描きつつ、そこにドラマ性を持たせることに非常に長けています。
『ペパーミント・キャンディー』ではその時代背景は深く描かず、あくまでも人生を壊された、時代に翻弄されるひとりの男のドラマを見事に描き切っているんです。
オアシス
(C)2002 Cineclick Asia All Rights Reserved.
原題:Oasis
製作年:2002年
製作国:韓国
配給:ツイン
日本初公開:2004年2月7日
上映時間:133分
解説
「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督が、社会に適応できない青年と脳性麻痺の女性の愛の行方を描き、第59回ベネチア国際映画祭で監督賞などを受賞した恋愛ドラマ。ひき逃げ死亡事故で服役し刑務所から出たばかりの青年ジョンドゥは、家族の元へ戻るが迷惑がられてしまう。ある日、被害者家族のアパートを訪れた彼は、寂しげな部屋にひとり取り残された被害者の娘コンジュと出会う。重度の脳性麻痺を持つ彼女は、部屋の中で空想の世界に生きていた。互いに惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくジョンドゥとコンジュだったが……。「ペパーミント・キャンディー」でも共演したソル・ギョングとムン・ソリがジョンドゥとコンジュをそれぞれ演じた。2019年3月、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版」公開にあわせて、HDデジタルリマスター版が日本初公開。
オアシス : 作品情報 - 映画.comより引用
第59回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀監督賞、新人俳優賞(ムン・ソリ)、国際批評家連盟賞を受賞した、極限の純愛を描いた傑作『オアシス』。
こちらもTwitterの感想から。
「オアシス」観た。
— レク (@m_o_v_i_e_) 2019年4月1日
前科持ちの男と脳性麻痺の女、不自由な二人が人倫から隔離される二人だけの世界。
これこそ正に純愛映画。
世間の目や各々の立場は愛の障害にはならず、現実と幻想、夢の中でさえもその愛は育まれる。
我々の倫理観や道徳概念をぶち壊し、他の恋愛映画と一線を画す超絶大傑作。 pic.twitter.com/TnWGS63M8R
前科持ちという偏見、障害者という偏見。
周りから見る目は無意識にも意識的にもそれを物語り、そんな中で2人が作り出す2人だけの世界が美しく描き出される。
互いが互いのことだけを理解できればそれでいい。
言葉にしなければ伝わらないこと。
言葉にすることで強まる意志。
言葉を交わすことで得られる共感。
逆に
言葉にしなくても伝わること。
言葉にしちゃうと安っぽく見えること。
言葉を交わさずとも感じる共鳴。
"愛"を伝えるために言の葉が紡ぎ出すものの大切さを。
そして"愛"を伝えるのに言の葉として表せない感情を。
ちょっと鑑賞後は「何も言えねえ」放心状態で座席から立つのもやっと。
偏見の意識を揺さぶり、表面上に見えるものだけでなく共感しにくい題材に感情移入させ、心の奥底にある何かを揺さぶるように魂を震わせ、我々の心をも飲み込んでしまう圧倒的演技力とそれを昇華させる圧倒的説得力。
もう一度言います。
オールタイム・ベストを更新しました!
『ペパーミント・キャンディー』よりも個人的には『オアシス』の方が好みです。
鑑賞したあの日からずっと心に留まり続けています。
上記に韓国映画は自国の汚点を時代背景としてしっかりと描きつつ、そこにドラマ性を持たせることに非常に長けていると語りました。
同時に、障害者を扱った映画や性的虐待を描いた映画も多数作られています。
『母なる証明』では殺人の容疑で逮捕された知的障害を持つ息子を持つ母親の行き過ぎた愛情と狂気を。
『7番房の奇跡』では冤罪で死刑判決を受けた知的障害の父親と娘の家族愛を。
この作品は韓国映画ベスト5に入る超絶大傑作です。
『それだけが、僕の世界』では落ちぶれた元ボクサーの兄とサヴァン症候群の天才的なピアノの腕を持つ弟の兄弟愛を。
『トガニ 幼き瞳の告発』では性的虐待を受けた障害を持つ子供の告発を。
などなど、救いのない暗く重い作品から心温まる愛の物語まで幅広い。
昨年公開の『殺人者の記憶法』でもソル・ギョングの抜群の演技力に魅せられました。
障害とは少し違うのですが、アルツハイマーを発症した元殺人犯が娘のために奮闘する家族愛を描いた作品です。
また、『オアシス』でソル・ギョングと甲乙つけ難い抜群の演技力を魅せたムン・ソリ。
『ペパーミント・キャンディー』でも良い役をされてたんですが…もう『オアシス』での演技は圧倒的。
ムン・ソリの出演作、全然観ていないので今後は追いかけていこうと思いましたね。
いい加減、パク・チャヌク監督作「お嬢さん」を観なければ…(笑)
終わりに
なお、2019年は『ペパー ミント・キャンディー』が製作20周年、『オアシス』が日本公開15周年と記念すべき年です。
レンタルにもありますので、是非イ・チャンドンの世界を堪能してみてください。
最後に個人的な願いを置いておきますね(笑)
イ・チャンドン監督作の円盤はどれもDVDが廃盤であったり、ブルーレイ化されてません。
どうか!どうか!
イ・チャンドン監督作のブルーレイBOXの発売を!!!
3万までなら出します、すぐ買います!!!
トリロジーとしてこの3作品だけの収録でも構いません!!!
というわけで完全に自己満足な記事になってしまいましたが、これからも韓国映画を、そしてイ・チャンドン監督及びソル・ギョングとムン・ソリの出演作を追いかけていこうと思っております。
最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました。
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【追記】
3作ブルーレイ発売歓喜!!!
ということで、予約して発売日当日にゲットしました!
ありがとう、イ・チャンドン!