小羊の悲鳴は止まない

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文学的視点から描かれた傑作(「モリーズ・ゲーム」ネタバレ考察)

目次




初めに

こんにちは、レクと申します。
久しぶりの更新になり申し訳ございません。
今回は「モリーズ・ゲーム」について語っています。

ネタバレ含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題:Molly's Game
製作年:2017年
製作国:アメリカ
配給:キノフィルムズ
上映時間:140分
映倫区分:PG12


あらすじ

女神の見えざる手」「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステインが主演を務め、トップアスリートからポーカールームの経営者へと転身した実在の女性モリー・ブルームの栄光と転落を描いたドラマ。「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞した名脚本家アーロン・ソーキンが、2014年に刊行されたブルームの回想録をもとに脚色し、初メガホンをとった。モーグルの選手として五輪出場も有望視されていたモリーは試合中の怪我でアスリートの道を断念する。ロースクールへ進学することを考えていた彼女は、その前に1年間の休暇をとろうとロサンゼルスにやってくるが、ウェイトレスのバイトで知り合った人々のつながりから、ハリウッドスターや大企業の経営者が法外な掛け金でポーカーに興じるアンダーグラウンドなポーカーゲームの運営アシスタントをすることになる。その才覚で26歳にして自分のゲームルームを開設するモリーだったが、10年後、FBIに逮捕されてしまう。モリーを担当する弁護士は、打ち合わせを重ねるうちに彼女の意外な素顔を知る。モリーの弁護士役をイドリス・エルバ、父親役をケビン・コスナーがそれぞれ演じる。
モリーズ・ゲーム : 作品情報 - 映画.comより引用



・予告編




本作の魅力

まずはツイッターの感想から。



本作「モリーズ・ゲーム」はモリー・D・ブルームによる自叙伝。
モリーが合法カジノで成り上がった半生、そしてモリー逮捕後の法廷劇。
そこに至るまでの経緯(過去)と弁護士との人間ドラマ(現在)が描かれています。



本作は主演ジェシカ・チャステインの魅力が最大限に詰まったもの。

彼女の魅力が詰まった映画「女神の見えざる手」。
本作と同様に強い女性像を描いた作品です。



女神の見えざる手」と本作「モリーズ・ゲーム」との決定的な違いはジェシカ・チャステインの冒頭からの語り部です。
そのマシンガントークは思わず聞き入ってしまうほど。

本作は脚本家アーロン・ソーキンの初監督作ということで、台詞量が膨大です。
早口な語り部や会話、スキー、ポーカー、法律などの専門用語など翻訳泣かせw

ここについて行くために頭をリセットして挑んでいただきたい。


また、モリーズ・ゲームで実名は明かされていませんが、彼女主催の超高額ポーカールームにはレオナルド・ディカプリオベン・アフレックトビー・マグワイアら有名スターや映画監督、一流スポーツ選手やミュージシャンも顧客リストに並んでいたとのこと。

モリーの半生、錚々たる面子を虜にしたギャンブル運営、これが作り話でないことが凄い。



上映時間は140分です。
しかし、圧倒的な台詞量とテンポの良さから全く長く感じることもなく終わりました。
ポーカーのルールくらいは分かっておいた方がいいかもしれませんが、メインはそこではないので問題ないです。


予告編を観る限りでは、モリーという一人の女性に焦点を当て、人生の成功と転落を描いたエンタメ性の強い作品のように見えました。
見る人によっては巨額の富を得るサクセスストーリーのように映ったかもしれません。

勿論、本筋はそのようなストーリーですが思っていた以上に人間ドラマが挿入されていました。



何度も言いますが、ジェシカ・チャステインの魅力が詰まった映画ではあります。

この映画はモリーの自叙伝にも関わらず、描写足らずでモリーのプライベートを想像しにくいという短所があります。
欲を言えばもう少し孤独感や虚無感から心理描写を描いて欲しかったというのが本音でもあります。

しかし、そこを補って余るその他の登場人物の存在。
脇を固める役者陣がモリーという人物に深みや厚みを与えてくれてるんですよね。



そして、これだけは言いたい。




ジェシカ・チャステインのドレスがエロい!!!



文学的視点から見る

作中にアーロン・ソーキンらしい文学的視点が登場します。
その辺について掘り下げていきます。


・「るつぼ」

作品でモリーを「るつぼ」だと比喩するシーンがありました。

『るつぼ』(原題:The Crucible)
アーサー・ミラーによる戯曲。セイラム魔女裁判と、それを通して当時問題になっていた赤狩りマッカーシズムに対しての批判を描く。1953年1月、ニューヨーク市マーテイン・ベックシアター(英語版)で初演。全4幕。
るつぼ (戯曲) - Wikipedia)り引用


「るつぼ」は映画化もされています。

クルーシブル [DVD]

クルーシブル [DVD]

『クルーシブル』(The Crucible)は、1996年制作のアメリカ映画。セイラム魔女裁判をモチーフにしたアーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』の映画化作品。
クルーシブル - Wikipediaより引用


「るつぼ」では様々な批判やテーマが込められています。
・集団心理の異常性と恐怖
・権力者による弾圧
・冤罪の恐ろしさと裁判制度への警鐘
・人間の尊厳と倫理観


多くの人を陥れた彼女が罪を負うことになるのか?
私利私欲に基づく身勝手な行動だと断罪されるのか?

周りを売って生きるか、それとも自らの尊厳を主張するのか?
魔女と認める虚言を拒み、処刑台へと送られる姿を見事にモリーと重ねられています。



・「ユリシーズ

アーロン・ソーキンの遊び心というか、本作のモリー・ブルームと「ユリシーズ」に登場する妻の名前に着目して重ね合わされる。


初版(1922年)

ユリシーズ』(Ulysses)
アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの小説。当初アメリカの雑誌『リトル・レビュー』1918年3月号から1920年12月号にかけて一部が連載され、その後1922年2月2日にパリのシェイクスピア・アンド・カンパニー書店から完全な形で出版された。20世紀前半のモダニズム文学におけるもっとも重要な作品の一つであり、プルーストの『失われた時を求めて』とともに20世紀を代表する小説とみなされている。

ユリシーズ - Wikipediaより引用



ユリシーズ」で描かれるオデュッセウス同様に、本作のモリーも事故からオリンピックの夢を絶たれるという地獄を見る。


ユリシーズ」で用いられた文体で最も特徴的なのが前後半での小気味よく転調する点だ。

前半では"意識の流れ"
心理学の概念で、人間の意識は静的な部分の配列によって成り立つものではなく、動的なイメージや観念が流れるように連なったものである。とするもの。
本作も同様に、モリー自身の内的独白で描かれる。


後半では語りの視点が複数化、非個人化するとともに作者固有の文体というべきものが消失している。
本作も同様に、前半での語り手であるモリー視点から、モリーの父親と弁護士視点として描かれている。



モリーの行動原理は「るつぼ」を用いて倫理観を示す。
台詞回しとその語りは「ユリシーズ」で展開される。

アーロン・ソーキンの文学的視点には正直驚かされた。



終わりに

「成功とはひとつの失敗から、熱意を保ち続けてもうひとつの失敗に移れる才能に他ならない」

ラストでモリーウィンストン・チャーチルの言葉を引用して締めくくっています。
言葉を紡ぐことにおいて右に出る者はいない天才、ウィンストン・チャーチル

首相就任からの27日間を描いた映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男



その類希なる言葉の魔術を披露していました。

‪失敗から学び、それを繰り返さないこと。‬
‪至極単純ながら難しい。‬
‪しかし、それが成功への最短ルート。なのかもしれない。


原作者であるモリー本人のインタビュー映像も貼っておきます。


最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。




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