小羊の悲鳴は止まない

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カタストロフィーが齎すリアリティ(映画「犬猿」ネタバレあり考察)

目次




初めに

こんにちは、レクと申します。
今回は楽しみにしていて、やっと観に行けた「犬猿」について綴っています。

この記事はネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


製作年:2018年
製作国:日本
配給:東京テアトル
上映時間:103分
映倫区分:G


解説

「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔が4年ぶりにオリジナル脚本でメガホンをとり、見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹を主人公に描いた人間ドラマ。印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・金山和成は、乱暴でトラブルばかり起こす兄・卓司の存在を恐れていた。そんな和成に思いを寄せる幾野由利亜は、容姿は悪いが仕事ができ、家業の印刷工場をテキパキと切り盛りしている。一方、由利亜の妹・真子は美人だけど要領が悪く、印刷工場を手伝いながら芸能活動に励んでいる。そんな相性の悪い2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させ……。和成役を「東京喰種 トーキョーグール」の窪田正孝、卓司役を「百円の恋」の新井浩文、由利亜役をお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子、真子役を「闇金ウシジマくん Part3」の筧美和子がそれぞれ演じる。
犬猿 : 作品情報 - 映画.comより引用


予告編



犬猿

タイトルの犬猿とは言わずもがな「犬猿の仲」という慣用句が由来ですね。
どちらが一方的に嫌っている関係ではなく、双方が双方を嫌っている関係を表す言葉です。

この言葉の由来は様々な説がありますが、面白い説が二つあります。



ひとつは"干支"にまつわる話。

元日に行われたレースで上位12位までに入った動物に、交代制で年毎にリーダーを任せるという神様の元への競争。

犬と猿は最初は両者の関係は良好でした。
それも仲良く一緒に出発して向かっていくほどの仲。
しかし、お互いに真剣になって相手に負けまいと一生懸命になっていった結果、途中の丸木橋で我先にと争って一緒に川に落ちてしまい、犬と猿の両者共に神様のところにたどり着くのが遅れてしまったそうです。

それが原因で犬と猿は大喧嘩をしてしまい、神様の元にたどり着いても喧嘩を続けていたというお話です。


犬猿の仲」という言葉の意味は、単に「仲が悪いこと」ではなく、正確には「かつては仲が良かったが仲違いをして悪化した関係」という意味なんです。



もうひとつの面白い説が"戦国時代"にまつわる話。

かつて戦国時代、天下統一を果たした豊臣秀吉は""というあだ名で呼ばれていたことは多くの人がご存知だと思います。
秀吉には前田利家という大親友がいました。
利家の幼名は"犬千代"。
両者は互いに"犬"、"猿"と呼ぶ間柄であったそうです。

二人は共に尾張の出で、昔から「尾張の言葉は汚い」と言うところから、両者の会話が他国人から見ると大喧嘩に見えたそうです。
「仲が悪い」と思い込んでしまい、この言葉が出来たそうです。


この言い伝えからも「仲が良い関係」が周りから見ると「仲が悪い関係」に見えてしまったことを意味します。



兄弟姉妹の決まり文句で「喧嘩するほど仲が良い」なんて言葉もあります。






・・・・・果たしてそうでしょうか?

個人的な話で申し訳ないんですが、自分には一歳半ほど年の離れた妹がいます。
作中では兄弟、姉妹で描かれていましたが、兄妹でも兄弟姉妹に抱く感情って共通してる部分はあると思うんです。

喧嘩している時はマジで消えてほしいとさえ思います。

(笑)



いやはや、私自身もそこそこの年齢になってきて、今でこそ喧嘩自体は無くなりましたが、小さい頃は歳が近いってのもあってよくくだらないことで喧嘩をしたものです。

性別が同じなら更に酷かったことでしょう。

兄や姉、弟や妹。
親や周りから比較されることで抱く劣等感。



"人間は比べたがる生き物だ"
自分がよく言う言葉です。

何かにつけて優位に立ちたがる。
また承認欲求や自己顕示欲を満たすため、優越感を得るために他人の悪口を言ったり蔑みマウントを取りたがる。

この作品はそんな他人ではなく、血の繋がった兄弟姉妹だからこその悩み、葛藤が巧みに練り込まれています。

完璧な人間なんていない。
自分にないものを持っていることは憧れでもあり、嫉妬するもの。
でもその相手が兄弟姉妹だからこそ、強がったり言いたいことを遠慮なく言えたりする。


犬猿」とはそんな兄弟姉妹が持つ特有の感情を的確にリアルに描かれた素晴らしい作品です。



兄弟姉妹は最も身近なライバル

先程、兄弟姉妹が抱く劣等感と記述しました。
本作でもその劣等感による嫉妬や悩みが幾つも描かれています。



そしてそのひとつひとつの演出が本当にリアルすぎるんですよ。


例えば兄弟で言うなら給料、父親の借金返済。
コツコツと真面目に働き生きてきた弟と出所後に会社を興し大金を得る兄。
父親の借金返済を済ませた兄と給料値上げにも素直に喜べない弟。
大金でマッサージチェアを送った兄と安くても気に入られる座椅子を買った弟。


姉妹に関してもそうだ。
姉の好きな人を恋人にした妹。
美人な妹と容姿に自信が無い姉。
頭の良い姉と馬鹿な妹。
家事が出来ていい嫁になると言われる姉と家事もせずにテレビを見る妹。


互いが互いを羨望し、疎ましくも思う。
そして、相手に負けないように強がってみたり、虚勢を張ったり、生きていく上で最も身近なライバルなんですよ!



その対比として描かれたのが弟と妹の遊園地デートです。


互いに互いの兄弟姉妹の悪口を言うんです。
弟は兄をバカにし、妹は姉をバカにする。
でも、妹が兄をバカにすると弟が弁解し、弟が姉をバカにすると妹が弁解する。
何やかんやで嫉妬する一方で自分の兄弟姉妹の良い部分をちゃんと認めている節もあるんですよね。


ここが兄姉が入院し、仲直りする流れに繋がるんです。
互いの良いところを認めること。
それでも悪いところは認めないぞ、と(笑)

この絶妙なバランスの元で兄弟姉妹の関係は成り立ってるんですよね。



あと、兄弟姉妹ってどこか似てる部分もあるんですよ。

例えば、兄弟揃って喫煙、親孝行、借金返済。
姉妹揃ってデート先が同じ遊園地(笑)


それは本人は認めない部分でもあり、周りから見ればふと気付かされる部分でもある。

これも兄弟姉妹ならではの描写ではないでしょうか?



カタストロフィー理論

「好きと嫌い」
同じような言葉で「愛と憎しみ」という言葉があります。

皆さんはこの言葉でどんなイメージをされますか?






自分が真っ先に出たのは"紙一重"でした。
中には"表裏一体"や"対極"なんて言葉が浮かんだ方もおられると思います。

そう、「愛」の裏側には「憎」があり、対極を成しながら表裏一体、紙一重の位置関係にあるものなんです。

このように、相反する感情があることをきっかけに入れ替わること、秩序だった現象の中から不意に発生する無秩序な現象を心理学の分野で「カタストロフィー理論」と呼びます。

カタストロフィーとは"大変動"や"破局"を表す言葉です。



この作品犬猿ではこのカタストロフィー理論が幾つも練り込まれているんです。

そこがすごいリアル!


暴力的な兄が突如優しく思えたり、クソ真面目な弟が実は腹黒く見えたり、不憫な姉が性格までブスに見えたり、いい子だと思ってた妹が最低だったり。

そして物語としては相容れなかった兄弟姉妹が仲直りし、そしてまた睨み合う。


兄と弟、姉と妹、好きと嫌い、愛と憎、これらが対比するように描かれています。

感情の入れ替わりは距離感は勿論のこと、血縁的、遺伝的にも近しい間柄、兄弟姉妹だからこそ起こりやすいのかもしれません。



幼少期と現在とでその心変わりをも描く吉田恵輔監督の上手さがでてましたね。



兄弟姉妹がおられる方には特に心にズシンと来るものがあったと思います。

幾度となく共感し、心を抉られ、頷き、笑える。

そんなリアリティを突き詰めた傑作なので、是非ともより多くの方にご鑑賞いただきたい。



終わりに

窪田正孝さんは俳優として売れて良かったですよ!
演技も良いし、表情も好きです。


新井浩文さんは本当に俳優として凄く好きな役者さんで、初登場シーンからのオーラがハンパないです!


ニッチェ江上を起用したことは素晴らしい。
ハマり役なのは勿論、笑いを取る所も台詞回しも慣れてらっしゃる感じで観ていても違和感なかったです。


にゃんにゃん(?)
ということで、結論として筧美和子は可愛い。



しつこいようですが、兄弟姉妹がおられる方は是非観てください!
そして、一人っ子の方がこの作品を観てどう感じられたのかお聞きしたい!


最後までお読みくださった方、ありがとうございました。




(C)2018「犬猿」製作委員会