小羊の悲鳴は止まない

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「散歩する侵略者」ネタバレ考察

目次




初めに

こんにちは、レクと申します。
先日観に行った「散歩する侵略者」について話していこうかと思っております。

黒沢清監督が劇作家、前川知大氏率いる劇団「イキウメ」の人気舞台「散歩する侵略者」を映画化したもので、キャストもそれぞれが映画初共演ということで新鮮な顔合わせとなってますね。

この先、ネタバレありきで書いてますので、未鑑賞の方はご注意ください。


あらすじと予告

あらすじ

数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。
急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う
加瀬鳴海。
夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?
その頃、町では一家惨殺事件が発生し、
奇妙な現象が頻発する。
ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。
やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。
「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。
当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。


予告編





キャスト


加瀬鳴海(長澤まさみ)
夫の異変に戸惑いながらも夫婦の再生のために奔走する主人公。



加瀬真治(松田龍平)
侵略者に乗っ取られた夫。



桜井(長谷川博己)
一家惨殺事件の取材中に侵略者と出会うジャーナリスト。



天野(高杉真宙)
桜井が密着取材を申し入れる若き侵略者。



立花あきら(恒松祐里)
一家惨殺事件を起こした若き侵略者。



他、豪華キャスト。



人類と侵略者

侵略者の目的

侵略者である宇宙人たちは会話をした相手からその『概念』を奪っていく。
そして奪われた人からは、その『概念』が永遠に失われてしまう。
では何故、宇宙人は『概念』を集めるのか?

地球侵略、と言っても目的は人類の絶滅。
人類と戦うためには人間という生き物を理解しなければならない。

その為に送り込まれたのが真治、天野、立花の3人です。
それぞれが得た『概念』を持ち寄り、人間という生き物を理解した上で侵略を始める。
実に手の込んだ侵略です。

恐らくその真意は、人類は地球にとって滅ぼすべき生き物なのか?を知りたかったのだと思います。



概念とは?

皆さん、『概念』って何だと思われますか?

物事の抽象的な一般的考え。
一般的な包括的表現。

恐らくこれが一般的な答えだと思います。
これが概念の『概念』。


よく、「固定概念にとらわれるな」なんて言ったりもしますよね。
我々人類は『概念』によって思考や行動の幅が狭められたり、制限されたりしているのではないか?

「家族」という『概念』を奪われた鳴海の妹は親からの期待に縛られることなく自由になった。

「自分」と「他人」の『概念』を奪われた学歴コンプレックスだった刑事は自分と他人を比較することを止めた。

「所有」という『概念』を奪われた丸尾は引きこもりから一転、開放的になった。

「仕事」という『概念』を奪われた鳴海の職場の社長は仕事に追われることなく遊びだした。

今まで縛られていた『概念』が無くなることで、どこか清々しくもあり幸せになったようにも見えてしまう皮肉さ。

しかし、愛や憎しみと言った感情の『概念』というのはひとりひとり違うものだと思いませんか?
それを『概念』と呼ぶこと自体が間違っているのかもしれない。
でもそれ自体が概念の『概念』なわけで、人によって愛のカタチは違うと思うんです。



真治と鳴海

真治は鳴海の妹から「家族」の『概念』を奪い、鳴海の職場の社長から「仕事」の『概念』を奪い、夫婦生活を知る。
鳴海はそんな真治の姿に、鳴海の中で徐々に愛が大きくなっていく。

この夫婦の"愛の再構築"と"愛の逃避行"が堪らなく好き。


人間の、鳴海の愛に触れ、そして愛を奪うことなく与えられて初めて人間とは何か?を知り、人間らしさを得た。

結果的に真治は鳴海から「愛」の『概念』を奪ったが、これを"奪った"と言いたくない(笑)
鳴海自らが差し出したもので、真治を愛していたからこそそこにあったものだから。

語ることは出来ても言葉では言い表せない"愛"という『概念』を理解することが一番難しく、それを得ることが出来たのは唯一の夫婦関係である真治に乗り移った宇宙人であり、また一から自分を見つめ直した姿に少しずつ芽生えた愛情を受け取れたものまた彼である。


鳴海の愛の『概念』を得た真治はその後、笑顔を見せるようになったのにお気づきになられましたか?
それまでは無表情だった真治に少し笑顔が見れるんですよ。
ここに最も人間らしさを感じました。

経緯はわかりませんが、他の2人の宇宙人は結果、若い子供に乗り移ったが、最後の1人が妻を持つ真治に乗り移ったことが良かったということか。

「愛」を知った真治は感情の欠落した鳴海を一生見守っていくことだろう。
それが、真治の鳴海に対する掛け替えのない愛の『概念』なんだと思います。



天野と立花


両親から『概念』を奪い桜井をガイドにした天野と、ガイドもなく一家惨殺事件を起こし隔離されていた立花とでは対照的でしたね。
侵略者にも個性や性別などの個体差はあるのだろうか?

真治は元々、人間が大人で落ち着いた性格だったように思う。
それに比べて天野と立花は子どもという印象が強い。

たとえ乗っ取ったとしても、その人間の記憶や性格は元のままなのだろう。


立花が隔離されていた病室で、アンジャッシュ児島との会話の中に「自分」と「他人」いう言葉が出てきました。

「自分」と「他人」の『概念』を得た2人の侵略者はより、その対照的な性格に分かれたようにも思います。


それは兎も角、この隔離されていた部屋でのアクションシーンで何故か、ジョン・カーペンター監督作「ゼイリブが頭によぎりました(笑)

ゼイリブとは

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ジョン・カーペンター監督の消費社会や格差問題に重きを置いた社会風刺SF映画
一つのサングラスから写し出される人間に紛れ込んだエイリアンの恐怖を描く。


よくよく考えたら人間の姿を借りたエイリアンという共通点もありますね。

しかし、一番印象的なのはサングラスをかけろ嫌だの不毛なプロレスタイム(笑)

これぞ無駄な名シーンなわけで、立花とアンジャッシュ児島の絡みも「自分」ってなんだ?「自分は自分だ」のやり取りが不毛なプロレスタイムに見えてしまったんでしょう(笑)



桜井は人類と侵略者、どっちの味方?

ジャーナリストの桜井はあくまで人間側と主張しながらも、侵略者の行動に不信感や恐怖心を抱きつつも協力的な姿勢を取ります。

初めは半信半疑、寧ろ子供のお遊びに付き合うような軽い気持ちで天野と行動を共にしていましたが、『概念』を奪うところを間近で見てその存在を信じるようになります。

鳴海と真治に侵略者を引き合せるなと苛立ちを露わにしながら説得にも行っています。
一度は断ったサンプルにも自ら志願します。
これもまた自分が生き残りたいがための行動。
また、宇宙人に侵略されていると公言までします。

その心は自分が生き残るため侵略者側にどんどん傾いていき、最終的には天野に乗り移った侵略者を自分に憑依させることまで提案します。

人類の味方でも、侵略者の味方でもなく、彼は彼自身の味方だったんだと思います。
桜井という人間は一番人間臭かったというか、人類の身勝手さや傲慢さを表現していたのでしょうか?



もう1人の侵略者の存在!?

概念を奪った宇宙人はより人間らしく、概念を奪われた人間は宇宙人のように。

真治、天野、立花の3人は人間という生き物を知るために『概念』を集める使命がある。
そして、発信機で仲間に通信して侵略を開始する。



『概念』を奪うシーンは同監督作「CURE キュア」を彷彿とさせる人間の心理に語りかける暗示のようです。


映画「CURE」より


真治が奪った『概念』は恐らく天野や立花よりも少ない。
「家族」「仕事」「所有」「愛」
一方、天野と立花は『概念』をどれくらい奪ったのかわかりません。


鳴海と真治が結婚式で使用した賛美歌が聞こえてきて教会へと入ったシーン。
真治が牧師から「愛」の『概念』を奪えなかったと聞いた時、最初は「あー牧師は既に概念を奪われてんのかな?」とか思ってました。

しかし、天野や立花は牧師の「愛」の『概念』を奪った様子はない。

幾つかの疑問が浮かんできませんか?
たった3人の侵略者に対して、『概念』を失った精神疾患の患者の数が多すぎること。
病院でのあの異常な数の患者。

推測されるのが、この3人以外にも別の侵略者がいるのではないか?

そうです、牧師さんの登場です。

東出昌大スマイル!!!


ここで衝撃的な画像を見つけてしまいました。


©️2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

9月18日からWOWOWプライムで放送されるドラマ『予兆 散歩する侵略者』のワンシーン。


倒れる患者たちの真ん中を歩くのは東出昌大ではありませんか!!!

ドラマ版での東出昌大さんは外科医らしいですが、『概念』取り放題なわけですね。
確かに他の使命を与えられた侵略者が居てもおかしくはないし、たった3人の侵略者というのも少ない気もします。
あくまでアプローチは『概念』を奪うことのようですが。
これを見ちゃうと、東出昌大ならやりそうって思ってしまいます(笑)


また、体内に入り込むという点で、染谷将太寄生獣のイメージが浮かんでしまいますね!

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ラストの解釈は?

小説ではラストは異なった終わり方になっているそうで、小説は未読故に読んでみようと思います。
今回は映画のラストについての個人的な解釈をさせていただきます。



あの隕石シーンから2ヶ月後、宇宙人は地球侵略をやめた?
ということは人類は絶滅する必要が無いと宇宙人が理解したのか?

これは人間の「愛」という『概念』がそうさせたのかもしれない。という想像ができますね。


しかし、どうやってその「愛」という『概念』が宇宙人たちに伝わったのか?
真治が仲間に伝えることは出来ないはず。
仮に通信が可能だったとしても、真治は鳴海のことしか考えていなかったからわざわざ侵略者に『概念』を伝えるのかも疑問だ。

そう考えると、侵略者たちは真治らと同じように人間を乗っ取り、その中でそれぞれ愛の概念を知り、真治と同じように人間として生きているんじゃないか?


つまり侵略をやめたのではなく、人間と共存するカタチを選んだ。

と考えられないだろうか。


だとしたら、あの2ヶ月前の隕石に宇宙人が乗っていたのかもしれない。
なんてことも考えられたり。



最後に

とまあ小難しい『概念』やSFらしい宇宙人の侵略などが全面に出てしまいましたが、人間の姿をして非人間的な行動をするちょっとクスッと笑える演出もあったり、鳴海と真治のラブストーリーも魅力的で、シリアスだけに留まらないところがいいですね。

宇宙人が地球侵略の為に集めた様々な『概念』。
これこそまさに我々人間が見つめ直すべき、大切にすべきものなのではないでしょうか。



ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

©️2017「散歩する侵略者」製作委員会