小羊の悲鳴は止まない

好きな映画を好きな時に好きなように語りたい。

自分の人生とは何か?(「嘘を愛する女」ネタバレ考察)

目次




初めに

こんばんはレクと申します。
今回は「嘘を愛する女」について書き綴っていきます。

ネタバレを含みますので、ご注意ください。



作品概要


製作年:2018年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:118分
映倫区分:G


・解説

長澤まさみ高橋一生が共演し、恋人の大きな嘘に翻弄されるキャリアウーマンの運命を描いたラブサスペンス。オリジナルの優れた映画企画を募集する「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」の第1回でグランプリを受賞した企画を映画化した。食品メーカーに勤める川原由加利は、研究医である優しい恋人・小出桔平と同棲5年目を迎え、公私ともに充実した日々を送っていた。そんなある日、自宅で桔平の帰りを待つ由加利のもとに、警察が訪ねてくる。桔平がくも膜下出血で意識を失っているところを発見されたのだが、桔平の所持していた運転免許証や医師免許証はすべて偽造されたもので、職業も名前も全てが嘘であると判明したのだ。ショックを受けた由加利は桔平の正体を突き止めるべく、私立探偵の海原匠と彼の助手キムに調査を依頼。やがて、桔平が書き溜めていた700ページにも及ぶ未完成の小説が見つかる。その内容をもとに、いまだ病院で眠り続ける桔平の秘密を探るため瀬戸内海へと向かう由加利だったが……。「ゆうちょ銀行」など数々の人気CMを手がけた中江和仁長編映画初メガホンをとった。
嘘を愛する女 : 作品情報 - 映画.comより引用


・予告編





嘘を愛する

ミステリーとしての核の部分である"嘘"

上映前の予告映像しか確認してませんでしたが、予告から想像できるようなミステリー色はあまりなく、どちらかと言えばラブストーリーであり、人間ドラマでしたね。


恐らく、ミステリーとして観ると物足りない感はあるかもしれません。
想像の範囲内ではありました。

だが、純粋にこの作品が示す"嘘"を通して伝えたいことを感じ取れば鑑賞後に心地良さを得ることが出来ることでしょう。



この核となる"嘘"は想像の範囲内と言いました。
それはあくまでも高橋一生さん演じる小出桔平(偽名)が嘘をついていた理由が想像できる範囲内であるということであり、そこはこの物語で重要なポイントではない。

桔平(偽名)が嘘をつき、身分を隠していたことの真意が二人を繋ぐ重要なポイントだと思います。


その部分を彼の手掛ける創作小説から、小出桔平(偽名)という一人の男を綴る人間ドラマへと仕立てた脚本が素晴らしい。

桔平の書いていた創作小説は過去の輝かしい想い出が綴られていました。
そう思い込ませるようにミスリードされていたわけですが。


しかし、実際その創作小説の真相は過去の自分との決別、そして新たに出逢えた大切な人との未来予想図が綴られていたことを知る。
創作小説が桔平と由加利とをつなぐもの、愛の絆となり得たのです。



この作品は
嘘を愛するとは嘘を受け入れること。
そして
"嘘"を通して相手への気持ち"愛"を再確認する物語
なんですよ。


人間、誰しもが全てを曝け出して生きているわけではありません。
人には隠しておきたい過去がある。

でも、それも含めてその人の人生なのです。
創作小説は桔平にとっての家族愛、人生が詰め込まれたものだったんです。



芥川龍之介と小出桔平

桔平が執筆する喫茶店で桔平は芥川先生と称されてました。
芥川とは皆さんご存知の芥川龍之介ですね。
また、作中の別シーンで太宰の名前も出ます。
太宰とは勿論、太宰治のことですね。

共に心中や自殺をイメージさせる日本文学における著名人。
今回は芥川龍之介について掘り下げていきます。

芥川龍之介
1892年(明治25年)3月1日 - 1927年(昭和2年)7月24日
日本の小説家。本名同じ、号は澄江堂主人(ちょうこうどうしゅじん)、俳号は我鬼。

「続西方の人」を書き上げた後、斎藤茂吉からもらっていた致死量の睡眠薬を飲んで自殺した。服用した薬には異説があり、例えば、山崎光夫は、芥川の主治医だった下島勲の日記などから青酸カリによる服毒自殺説を主張している。

Wikipediaより引用


代表作は「鼻」「羅生門」「蜘蛛の糸」「地獄変」などがあります。
個人的には彼の作品を読んだ印象として、芥川龍之介という人物は「何故」という自問自答にも思える問いかけを作中に残す作家だと思うんですよ。
全てを読めてないので、読んだ作品がたまたまそうだったのかもしれませんが。


例えば「鼻」ではコンプレックスである欠点を直したが、更にそのことを笑いものにする人の醜い心の内を。
羅生門」では、生きる為の悪行は悪なのか?を問いかける。



そんな中で芥川龍之介はこんな作品を残しています。
或阿呆の一生


この作品を読んだ時に、「地獄変」をふと思い出したんですよね。

また芥川の身辺でも「地獄変」と似た結末の出来事が起こりました。
中国旅行中に肋膜炎を患った芥川は心身の病気を発症。
そんな時、芥川の義兄の家が焼失し、放火の嫌疑を受けた義兄は自殺してしまったそうです。

芥川龍之介という作家の人生もこうだったのかなあとさえ思ったほどです。
芥川の考える人生の結末と、周りが見る人生の結末の真相は別なのではないか?と。


自分の人生とは何か?
そんな問いかけから導き出した答えはこの作品に記述されている「一生」という言葉が全てを物語ってます。

本来、自叙伝というものは今までの人生を振り返る言わば「半生」を書き綴るものなんです。
或阿呆の一生」は芥川自殺直後に見つかった自叙伝ですが、勿論生前に書かれたもの。
「半生」ではなく「一生」と書かれたことから、芥川自身の人生は既に終わりを迎えていたのかもしれません。


彼が何故自殺をしたのか?
その真意は本人にしか分かり得ません。
ただ言えることは、この作品から察するに己の人生を後悔していたのではないだろうかということ。
そして、人生の終着駅に自ら命を絶つことを選んだということ。


或阿呆の一生」と高橋一生(桔平)
過去への未練や後悔を孕む人生観は重なる部分が多いでしょう。

芥川龍之介と小出桔平の異なる点は

そんな辛い過去を乗り越えられる可能性を見つけたこと。
それが由加利の存在であり、想い描く人生だと思うんです。



世界の中心で(マジンガー)Zと叫ぶ

さてさて、ここで印象的なマジンガーZに触れておきましょう(笑)


冒頭に桔平がタブレットで「これじゃ無いんだよなあ…」なんて探していたオモチャのマジンガーZ
部屋に飾られたマジンガーZのフィギュアからも、一見オタクなのか?と匂わせる描写となっていました。

桔平が嘘をついていたこと、そしてくも膜下出血で倒れてしまったことで、由加利は桔平の私物を処分します。
その時に床に落ちていたフィギュアもマジンガーZ
踏みつけたマジンガーZは如何にも由加利と桔平の関係のように破損してしまっていましたね。

愛し合った5年という歳月すらも嘘なのではないか?
苛立ちを隠せず人にあたってしまう由加利を見るのが辛かった。


そんな中で、真相を探るべく四国の瀬戸内へと向かった由加利。

中盤からこのマジンガーZが重要な伏線になっています。
創作小説が記す蝋燭のように見える灯台で見つけた筒の中からマジンガーZが出てきたではありませんか!


この時、思わず
ゼーーーーーーット!!!
と叫びたくなりましたね(笑)

いや、むしろ吉田鋼太郎演じる私立探偵、海原なら叫んでもおかしくなかった。


原稿に綴られていた桔平の手掛かりでもあった夕日に照らされて蝋燭のように見える灯台
言い換えれば、桔平の過去の想い出の中心にあたる場所。

世界の中心で(マジンガー)Zと叫ぶ


そう、このマジンガーZのフィギュアは
過去に失ったものを再び手にすることが出来るのか?
を暗示するものなんです。


マジンガーZのフィギュアは原稿にも綴られていた通り子どもの頃の"宝物"
では桔平にとっての宝物とは一体なんなのか?

それは"家族"です。
過去に失ったもの、それを再び手にすることは出来るのだろうか?
そんな罪悪感から「俺にはそんな資格ない。」という心の声が漏れたと思います。

自分の過去に苦しみ、打ち明けられず、それでも由加利が欲しがっていた男の子と家族三人で手を繋ぐ暖かな姿を想像し、書き綴っていた桔平の胸中の想い。

それは原稿に綴られた桔平が想い描く理想の家族像であり、人生における"宝物"なのでしょう。


そして、マジンガーZを見つけ出し、手にした由加利は桔平との家族愛を手にすることを示唆させる。
かつての桔平家族が住んでいた家を訪れたシーンでも隣人の問いに対して、由加利は桔平の妻だと答えました。
ここからも由加利の桔平に対する想いは固まっていたと思います。



また、マジンガーZには幾つかの必殺技があります。
ブレストファイヤーやルストハリケーンなどもありますが、今回はロケットパンチとアイアンカッターに着目します。

マジンガーZ
永井豪の漫画作品、原作者を共にする東映動画制作のテレビアニメ、桜多吾作によるコミカライズ作品の題名、またこれら3作品で描かれる主役の巨大ロボットの名称。

ロケットパンチ
両腕の肘から先が分離し、光子力ロケットで飛行、敵を貫く。飛行速度はマッハ2で誘導も可能。第19話では空飛ぶ機械獣を引きずり降ろすためにチェーン付きで発射。指からのジェット噴射で再度腕に戻る。中盤以降は後部のロケットを噴射したままバックで腕に戻ることが多くなった。

アイアンカッター
ロケットパンチの強化版。前腕部から左右に飛び出す斧状の刃で敵を切り裂く。もりもり博士による設計で第59話から使用した。刃は腕を切り離さない常態でも使用することが出来る。

Wikipediaより引用


灯台で見つけ出したマジンガーZは片腕がなかったのに気が付かれましたでしょうか?
恐らく、子どもならロケットパンチを飛ばして遊んだことでしょう。
その時に紛失したと考えられます。

ロケットパンチは発射して相手を攻撃し、噴射によって手元に帰ってくる仕組みとなってます。
これは過去の桔平の家族のメタファーであることは間違いないでしょう。


この物語のラストシークエンス。
桔平の病室に飾られたマジンガーZの腕には何とアイアンカッターが取り付けられていたんですよ!
アイアンカッターはロケットパンチの強化版。
つまり、桔平と由加利の愛がより一層強まったことを表し、尚且つ家族愛を取り戻すことが出来たということ。

マジンガーZなくしてこの作品は語れませんね!



終わりに

このタイミングで
映画マジンガーZ INFINITY」
を観てないことが悔やまれます。

とは言ってもあまり興味もないので観に行かないと思いますが(笑)


高橋一生さんも長澤まさみさんも演技は申し分ないですね。
台詞のタイミングや間の取り方、表情や所作、言葉で伝えること以上の何かを感じさせてくれる演技なんですよね。
勿論、吉田鋼太郎さんはじめ脇を固めた俳優さん方も素晴らしいんですが。


原作とは内容が異なるそうなので、原作も読んでみようと思います。

最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。



(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会