妄想のバイブル(「勝手にふるえてろ」ネタバレ考察)
目次
初めに
こんばんは、レクと申します。
今日は昨年見逃した映画「勝手にふるえてろ」を鑑賞してきました。
「勝手にふるえてろ」観た。
— レクター (@m_o_v_i_e_) 2018年1月15日
ヨシカの吐き出した歯磨き粉になりたい人生だった。
勝手にふるえながら脳内に松岡茉優を召喚します。
この恋、絶滅すべきですね。わかります。
帰ったらブログ書こう。 pic.twitter.com/RDhUi0h5ne
相も変わらず、Twitterにはおバカな感想を垂れ流しましたが、いつも通りひとつのことを深堀りしていこうかと思います(笑)
興味のある方は最後までお付き合いください。
この記事はネタバレ含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。
作品概要
製作年:2017年
製作国:日本
配給:ファントム・フィルム
上映時間:117分
映倫区分:G
・解説
芥川賞作家・綿矢りさによる同名小説の映画化で、恋愛経験のない主人公のOLが2つの恋に悩み暴走する様を、松岡茉優の映画初主演で描くコメディ。OLのヨシカは同期の「ニ」からの突然の告白に「人生で初めて告られた!」とテンションがあがるが、「ニ」との関係にいまいち乗り切れず、中学時代から同級生の「イチ」への思いもいまだに引きずり続けていた。一方的な脳内の片思いとリアルな恋愛の同時進行に、恋愛ド素人のヨシカは「私には彼氏が2人いる」と彼女なりに頭を悩ませていた。そんな中で「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこう」という奇妙な動機から、ありえない嘘をついて同窓会を計画。やがてヨシカとイチの再会の日が訪れるが……。監督は「でーれーガールズ」の大九明子。2017年・第30回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され、観客賞を受賞した。
勝手にふるえてろ : 作品情報 - 映画.comより引用
・予告編
この恋、絶滅すべきでしょうか?
この作品で特に気になったのが"水"の描写。
すべての恋愛ポイントで"水"が絡んできます。
ここら辺をヨシカの恋愛と絡めて考察していきます。
- 500mlのミネラルウォーター
ミネラルウォーターに特にこれといった意味はありません(笑)
ただ、ニの想いを受け取る瞬間の機会を作ったものではありますね。
背中をさすってあげたり、こじらせ系女子ヨシカの優しい一面も垣間見れます。
- 危うく火事に
浮かれて眠ってしまってストーブで布団を燃やし、湯船に張った水で鎮火するシーン。
これはニから人生で初めて告白されて舞い上がったヨシカの気持ちを表し、一度落ち着かせた瞬間。
ヨシカの心理状況が伝わります。
私事ですがこの日、ストーブ付けっぱなしで映画を観に来ていたようで、帰宅してドキッとしてしまいましたね。
自分は告白なんかされてないので火事にはなっておりませんが(笑)
- 川釣りデートとパワースポットである滝
「釣った魚に餌はやらぬ」
親しい間柄になったあとは、相手の機嫌をとる必要はないという諺ですが、魚を釣る描写は一切なく、ニとは親しい間柄でもない心の距離感を表しています。
逆に釣り糸が絡む演出は後に運命の糸を絡ませることを示唆するもの?
滝の前で神に祈るようにイチの母親に電話するヨシカ。
これをきっかけにイチとの再会と東京に住んでいるという貴重な情報をゲットしたわけですね(笑)
神様!お母様!様様です!
- 上京組の集まり
イチが東京住みという神様からの贈り物のお陰で上京組で集まることとなったタワーマンションにて。
この時のニの距離感がかなりキモい(笑)
都合よく一人になった時にイチが水を飲みに戻ってきました。
イチとまともに話せたシーンでもありますね。
いじられ続けることへの嫌悪感から他人との距離を置くようになっていた、とイチの人物像を知ることができます。
ヨシカとイチとの間で価値観のズレが生じた瞬間でもあります。
アンモナイトの話題で盛り上がるも、イチが自分の名前を覚えてないというショックな事実。
ヨシカ自身も他人の名前に興味がなく、「名前を知らない=無関心」と受け取ってしまったのでしょう。
- 歯磨きとうがいの音
ミュージカル調になったシーンで露になりましたが、冒頭から見せられていた日常会話は全てヨシカの妄想でこうなりたかった自分の理想の可視化。
イチとの想い出話に花を咲かせ、イチへの想いを馳せる。
何度も流れた一見不要とも取れる歯磨きシーンとうがいの音と同じように、ヨシカの日常的であったその妄想も毎日、脳内で吐き出していたことを表します。
突然、ミュージカル調になった理由も考えてみます。
冒頭からこのミュージカル調までは、恰もこれが現実であるかのように描写されていたご近所や街中の人々との付き合い。
ミュージカル調に仕立てたのはそんな日常と区別するためのひとつの演出でしょう。
そしてミュージカル調にすることで心の中の想いをぶちまけ、単なるセリフではなく音で鑑賞者側へと伝える。
「アンモナイトに生きる術を問う」
これはまるで自問自答のようでもある。
一見、変化球のようですがここでこの演出を持ってきた点は個人的にかなり評価できます。
- トイレで涙するシーンの流水音
そしてキスを避けたことから同僚の来留美がヨシカは処女だという秘密をニに伝えたことを知ります。
トイレで泣きじゃくる音を誤魔化すように何度も押されるトイレの流水音。
これは信頼していた来留美、処女だとバレたニ、そして会社との関係を水に流す、つまり白紙にするという彼女の意思表示。
流水音って連打すると違和感しかない(笑)
自分を好きでいてくれるニの存在。
直視できなかったヨシカの「視野見」からの成長。
向かい合って行うスポーツ、卓球からも読み取れるように、自分と他人とのコミュニケーションにちゃんと向き始めたヨシカだったが、自分の知らないところで他人と他人のコミュニケーションによって自分が蔑ろにされていると気づきショックを受けたのでしょう。
- 雨の日の初キス
なんやかんやでニからの着信を待ちながら電話を掛けるもニはヨシカを着信拒否。
ここ一番笑いました、fxxk!(笑)
偽名を使って連絡を取り、ニを呼び出すヨシカ。
雨はすべてを洗い流してくれました。
「雨降って地固まる」ってやつです(笑)
二人が本音をぶつけ合い、決め台詞「勝手にふるえてろ」からの初キス。
このシーンは後程改めて記述します。
- アンモナイトと回想シーン
ヨシカがWikipediaを見るだけで夜更かし出来るほど熱中する絶滅種。
そのひとつ、海の生き物アンモナイト。
そしてイチとの思い出、過去へと遡る際に流れるBGM。
アンモナイトの化石標本(裁断面)アンモナイト
古生代シルル紀末期(もしくは、デボン紀中期)から中生代白亜紀末までのおよそ3億5,000万年前後の間を、海洋に広く分布し繁栄した、頭足類の分類群の一つ。全ての種が平らな巻き貝の形をした殻を持っているのが特徴である。等角螺旋
アンモナイトの殻(螺環)の外観は一見しただけでは巻き貝のそれと同じようにみえるが、注意深く観察するとそうではない。一般的なアンモナイトの殻は、巻き貝のそれと共通点の多い等角螺旋(対数螺旋、ベルヌーイ螺旋)構造を持っていることは確かであるが、螺旋の伸張が平面的特徴を持つ点で、下へ下へと伸びていき全体に立体化していく巻き貝の殻とは異なり、巻かれたぜんまいばねと同じような形で外側へ成長していくものであった(もっとも、現生オウムガイ類がそうであるように縦巻きである)。
異常巻き
通常のアンモナイトの殻は同一平面に螺旋に巻いた渦巻状の形態である。ところが中生代も後期の白亜紀に入ると、「異常巻き」と呼ばれる奇妙な形の種が数多く見られるようになってくる。細長く伸びたようなものや、紐がもつれたような非常に複雑な形状のものなど、様々な形態が現れ(ニッポニテスが有名。左の画像参照)、過去の研究者を悩ませた。これらは系統進化上の“寿命”なるものが尽きることで引き起こされた一種の末期的な畸形(きけい)の症状であると見なすのが旧来の説だったが、現在は浅海域が発達した白亜紀という時代の環境に因を求め、そこに生じた複雑なニッチ(生態的地位)に適応して様々な生活型のアンモナイトが分化した結果であるという説が唱えられている。
Wikipediaより引用
中学生の頃からずっと片想いのイチ。
同僚で自分のことを好きになってくれたニ。
二人の間で揺れ動くヨシカの恋愛模様が面白いんですが、この絶滅種であるアンモナイトはヨシカの比喩なんですよね。
一見、外見は普通の独身26歳の女性なんです。
しかし、実際は誰とも付き合ったことがなく、妄想を膨らますこじらせ系女子。
アンモナイトが垂直ではなく螺旋の外側へ平面的特徴に伸張するように、彼女の恋愛も中学生の頃から片想いのイチへの想いばかりが膨らみ、平面的であること。
そして、ニと出逢い、告白されることでヨシカの想いが揺らぎ始める。
アンモナイトの紐がもつれたような複雑な形状のものへと適応したようにヨシカ自身の恋愛模様も複雑なものへと変わっていく。
また、社会に適応するためにひねくれていったヨシカの性格の自己投影でもあるのでしょう。
では何故回想シーン導入時に水のBGMが流れるのか?
自分が思うに、海の底へと沈むように過去の記憶の中へと潜っていくひとつの演出ではないかと。
目を閉じ足を閉じるスタイルからもその事を示唆させます。
浮遊型遊泳動物であるイカや海底を匍匐するタコのように、ヨシカの比喩である絶滅種アンモナイトは過去の記憶という大海原を生きているんです。
かなーりこじつけましたが、"水"の描写があるポイントで恋愛が関係していることがわかっていただけると思います。
勝手にふるえてろ
さてさて、上記に記述しました初キスですが、何故ヨシカはキスをする前にタイトルでもある決め台詞「勝手にふるえてろ」を言葉にしたのでしょう?
まず、ヨシカはイチに名前を覚えられていませんでした。
そしてヨシカ自身も周りの興味ない人の名前を覚えられない。
恋愛において辛いことはフラれることじゃなく、相手の中に自分が存在しないことなのではないでしょうか?
自分は他人に興味がないが、他人は自分に興味を持ってると思い込んでいること。
ヨシカという人物を通して警鐘を鳴らすSNSの怖さ。
そんな中、ニはヨシカのことを江藤さん(後にヨシカ)と呼んでいます。
「名前」はイチとニを対照的に描き、またヨシカ自身の他人への無関心さも浮き彫りにした重要な要素なんです。
ヨシカがニの名前を初めて呼んだことにより、ヨシカはニを受け入れたということ。
そして、ニはヨシカに受け入れてもらった。
その後の台詞「勝手にふるえてろ」
これは自分自身、ニへと向けられた言葉でもあり、脳内妄想イチへ向けられた言葉でもあると思うんですよ。
キャッチコピー
「この恋、絶滅すべきでしょうか?」
この絶滅とはイチへの恋であり、ニの存在がヨシカの恋愛観を変えてしまった。
アンモナイトの異常巻きのように。
イチへの10年の片想いと妄想を馳せていたヨシカが新たな恋愛へと踏み出した相手、ニ。
彼と付き合いが始まったとしても、絶滅しても記憶として後世に残るように、ヨシカの脳内には常にイチの記憶が残っています。
ヨシカにとってイチはそれだけ大きな存在であり、脳内妄想としてこれからも残っていく。
オタク女子が二次元の彼氏を脳内に置くように、ヨシカもまた脳内に天然王子を召喚し続けることでしょう。
今まで理想を追いかけるばかりだったヨシカが逆の立場になり、妄想ではなく現実で幸せを手にしようとしている、ある種の武者震いのように勝ち誇ったように口にした言葉
「勝手にふるえてろ」にふるえましたね。
また、このシーンで自分が手放しで褒められる"ふるえる"ような演出がありました。
ヨシカとニを繋いだ赤い付箋です。
ヨシカの左胸に貼られていた赤い付箋が雨で濡れたニのシャツに落ち、毛細管現象で徐々に濡れていく様は、ヨシカかニの恋愛観に染まっていく様子、そして裸体を見せない二人の濡れ場シーンなんですよ!
"水"の描写がヨシカの恋愛に絡むと上記でも記述しましたが、この演出には脱帽です。
終わりに
いつも綺麗にオシャレに着飾っているよりも、少しだらしなくて生活感が垣間見得る瞬間って好きなんですよ。
何故かって、その人の本質を感じられるから。
案外、こういう女性の方が男性陣ウケするんじゃないかと思うわけですよね。
作中にも出てきましたが"自然体"で居れること。
ここは激しく共感しました。
色々な恋愛観に響く何かを含んだ凄い作品ではないかと思うんですよ。
生々しい心理描写、リアルな心変わりはある意味で恋愛のバイブルにもなり得る。
…いや、恋愛未満の話なので妄想のバイブルですね(笑)
理想と現実、濃度は違えど人が内包するものであることは間違いない。
恋愛経験ゼロのこじらせ系女子が大人の恋愛とはいかないものの、恋を通して成長する物語。
その不安定さを持つヨシカを演じきった松岡茉優さんにふるえが止まりません。
原作も読んでみたいと思います。
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最後までお読みいただいた方、ありがとうございました!
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会