「殺人者の記憶法」「悪女/AKUJO」と韓国映画について(ネタバレなし感想)
目次
初めに
こんにちは、レクと申します。
今日は韓国映画2本立てということで
「殺人者の記憶法」「悪女/AKUJO」
を観てきました。
今回はこの2作を絡めた韓国映画について、ネタバレなしで語っていきます。
作品概要
(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
原題:Memoir of a Murderer
製作年:2017年
製作国:韓国
配給:ファインフィルムズ
上映時間:118分
映倫区分:G
解説
「監視者たち」「ソウォン 願い」「シルミド SILMIDO」など数々の作品で韓国を代表する名優ソル・ギョングが、アルツハイマーのために記憶があいまいな元連続殺人犯を演じ、「ワン・デイ 悲しみが消えるまで」「パイレーツ」のキム・ナムギル扮する新たな連続殺人犯との対決を描いたミステリーサスペンス。かつて連続殺人を犯した獣医のビョンスは、いまはアルツハイマー病に侵され、記憶がおぼろげになっていく日々を送っていた。あやふやになる記憶への対処のため毎日の出来事を録音する習慣がついていたビョンスは、ある日、偶然出会った男テジュの目つきに、テジュが自分と同じ殺人犯であるという確信を抱く。やがてテジュはビョンスのひとり娘ウンヒのそばをうろつくようになり、ビョンスはひとりでテジュを捕らえようとするのだが……。
殺人者の記憶法 : 作品情報 - 映画.comより引用
予告編
(C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & APEITDA. All Rights Reserved.
原題:The Villainess
製作年:2017年
製作国:韓国
配給:KADOKAWA
上映時間:124分
映倫区分:R15+
解説
「渇き」のキム・オクビンが女暗殺者を熱演したスタイリッシュアクション。日本で「22年目の告白 私が殺人犯です」としてリメイクされた映画「殺人の告白」で知られるチョン・ビョンギル監督が手がけた。犯罪組織の殺し屋として育てられたスクヒは、いつしか育ての親ジュンサンに恋心を抱き、やがて2人は結婚するが、ジュンサンが敵対組織に殺害される。怒りにかられたスクヒは復讐を果たすが、国家組織に拘束されてしまい、国家の下すミッションを10年間こなせば自由の身になるという条件をのみ、国家直属の暗殺者として第2の人生を歩み始める。やがて、新たな運命の男性と出会い、幸せを誓ったスクヒだったが、結婚式当日に新たなミッションが下され……。
悪女 AKUJO : 作品情報 - 映画.comより引用
予告編
韓国映画の魅力
この2作は映画情報を知ってから、楽しみにしていた作品です。
何と言っても私、韓国映画が好物なんですよね。
個人的な意見ですが、韓国映画の最大の魅力は心理描写の繊細さだと思っています。
また、猟奇殺人ものやアクションなどはバイオレンス描写も素晴らしい。
演出ひとつひとつが丁寧で、妥協していないからこそ成し得る作品なのではないでしょうか?
民主化による検閲の廃止と映画法の廃止によって法的な制限がなくなったことや、韓国経済が潤い財閥がスポンサーになって製作費が増したことなど、裏事情もあるにはあるんですが、高い演技力と中毒性、繰り返し観たくなる魅力があるんですよね。
また、映画「哭声/コクソン」に出演された國村隼さんも韓国映画の魅力について語られています。
國村:実は今回の映画に出る前、韓国映画を観る側だった時に僕自身、その力強い感覚や俳優さんたちのモチベーションが高そうな印象を受けていました。いったい撮影現場はどうなっていて、どうしてこういう作品になるんだろうって興味を抱いていた時にオファーをいただいた。今回参加してひとつ思ったことは、システムの違いもあるでしょうけれど、韓国では撮影現場において監督が絶対的な権力を持っている。すべては監督からのみ発信されて、それゆえに監督はすべての責任を負っているわけです。
(中略)
本当に、エンターテインメントのヒエラルキーでは、おそらく映画が一番高いでしょうね。だから携わっている人たちは高いプライドとモチベーションを持っていて、お客さんがそれを支えている。第一、5,000万人くらいの人口で1,000万人の映画人口がいるわけですから、映画を愛しているんですよ。だから韓国では面白い映画が生まれると、僕は思っています。
國村隼が語る「韓国で面白い映画が生まれる理由」 | AbemaTIMESより抜粋引用
「殺人者の記憶法」はバイオレンス描写は少なめで年齢制限もない、この手の韓国映画としては珍しい作品でもありますね。
その代わりと言ってはなんですが、心理描写はずば抜けて凄い。
それもこれも監督の演出と韓国を代表する名優ソル・ギョングの演技力あってのもの。
「悪女/AKUJO」は如何にも韓国映画というバイオレンスさでR15+。
POV視点や、どうやって撮ってるんだろうといった視点の映像が凄まじい臨場感を演出する最新スタイリッシュアクション。
これは役者の演技と監督の拘り、妥協を許さない姿勢です。
雨のシーン
韓国映画のもうひとつの魅力は独特のじめじめとした湿った雰囲気。
イメージとして、雨の演出の使い方が非常に上手い。
人物の心理描写と雨の演出との相乗効果で登場人物は一切涙を流していないシーンでも惆悵、慟哭する様を比喩的に表現し、悲嘆さを心に語りかけてくる。
ポン・ジュノ監督作「殺人の追憶」
© 2003 CJ E&M CORPORATION, All Rights Reserved.
ナ・ホンジン監督作「チェイサー」
(C) 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
チョン・ビョンギル監督作「殺人の告白」
(C)2012 DASEPO CLUB AND SHOWBOX/MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED.
ナ・ホンジン監督作「哭声/コクソン」
© 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
また、毛色は違いますが
同じアルツハイマーを扱った映画でも雨が演出されています。
イ・ジェハン監督作「私の頭の中の消しゴム」
(C)2004 CJ Entertainment Inc.& Sidus Pictures Corporation. All rights reserved.
勿論、「殺人者の記憶法」「悪女/AKUJO」でも雨のシーンが使われています。
ウォン・シニョン監督作「殺人者の記憶法」
(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
チョン・ビョンギル監督作「悪女/AKUJO」
(C)2017 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & APEITDA. All Rights Reserved.
自分自身が韓国映画の雨のシーンを意識しすぎてるからかもしれませんが、事件が起こる前兆や事件現場、登場人物の心理的変化の場面で、雨のシーンが多く導入されています。
※主に自分の観た韓国映画での話
もし今後、韓国映画をご覧になられる際には雨のシーンに着目して観てみるのも面白いと思いますよ!
ちなみに、自分が韓国リメイクして欲しい映画No.1は「ミュージアム」ですね。
(C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会
レーティングを引き上げて、韓国映画ならではのバイオレンスさ、猟奇殺人特有の湿った空気感を最高に演出できると思うんです。
邦画がダメだったわけではないんですが。
第二の人生と対比
「殺人者の記憶法」「悪女/AKUJO」
2作の共通点は第二の人生と対比です。
共に"ある過去の出来事"を境に第二の人生を歩むことになります。
そして過去の自分と第二の人生を歩む自分との現状や心情の対比がそれぞれの物語の良いアクセントになってるんですよね。
・「殺人者の記憶法」
先ずはTwitterに挙げた感想から。
↑ひとつ誤字があるんですが面倒くさいので直さなかったんですよ(笑)「殺人者の記憶法」観た。
— レクター (@m_o_v_i_e_) 2018年2月12日
記憶という曖昧な記録と録音された確かな記録を頼りに真実と嘘を錯綜させながら描かれる。
アルツハイマーにより失われていく元殺人者の記憶が事件の真相を曇らせ解決の糸口を消し去っていく。
殺人と親子、詩と散文の対比、親子の絆は事件解決に一筋の光を齎す。 pic.twitter.com/VNYxnQp0CS
正しくは「殺人と育児、詩と散文の対比」です。
作中で「殺人は詩、育児は散文」だとあまり深い意味もなく語られます。
しかし、この言葉が忘れられない。
なぜならこの作品を表す言葉として最も適した言葉だからです。
詩
言語の表面的な意味(だけ)ではなく美学的・喚起的な性質を用いて表現される文学の一形式である。散文
小説や評論のように、5・7・5などの韻律や句法にとらわれずに書かれた文章のことである。Wikipediaより引用
「殺人は詩」
過去の出来事を表し、習慣として付いてしまった殺人という行為は形を崩すことなく人生に刻まれているもの。
元殺人鬼というこの習慣が過去のトラウマとして作中にも使われる。
「育児は散文」
育児、つまりは親と子の愛を表し、愛の形は常に一定ではなく変化していくもの。
娘を想う気持ちが現実と向き合う事件解決の糸口を明るく照らす。
サスペンスに重きが置かれ、それに並行してアルツハイマーで日々失われていく記憶とそこに起こる事件とを錯綜させる上で、元殺人鬼の心理描写は必須。
アルツハイマーという病に冒され、やりたいこととやらなければならないことが思うようにいかない。
そんなもどかしさ、そしてその事すらも忘れてしまう恐怖を巧みに上手く描いています。
記憶と記録、正気と狂気、現実と虚構、真実と嘘。
アルツハイマーの元殺人鬼だけでなく、我々鑑賞者側も惑わされること間違いなし!
ご覧になられた方はこちらも観たいですよね!
(C)2017 SHOWBOX AND W-PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
韓国を代表する演技派俳優ソル・ギョングの主演で、アルツハイマーにおかされた元殺人犯が、新たに出現した殺人鬼と対峙する姿を描いたサスペンスミステリー「殺人者の記憶法」のストーリーが異なる別バージョン。主人公のアルツハイマーの元連続殺人鬼ビョンスと、新しい殺人鬼テジュの激しい攻防をさらに詳しく描き、周囲を欺き一般社会に溶け込んでいる様子のテジュや、ビョンスから鋭い殺意を感じて疑惑の目を向ける警察官ビョンマン、そして事件の顛末を明らかにしようとする検事といった新しい場面が多数追加されている。
殺人者の記憶法 新しい記憶 : 作品情報 - 映画.comより引用
・「悪女/AKUJO」
Twitterの感想から。
「悪女/AKUJO」観た。
— レクター (@m_o_v_i_e_) 2018年2月12日
これこそ秒でアガる!!!
既視感あるリベンジもののストーリーのようで、過去のトラウマや楔、自身への甘さを断ち切る一人の女殺し屋の心情を描く。
愛と復讐の果てにあるものとは?
アクションも然る事乍ら、凄まじい臨場感を作り出すPOV視点と引きのカメラワークに驚愕。 pic.twitter.com/bIfZd6if4d
冒頭の7分ノンストップアクションは秒でアガる!
一人称視点と三人称視点の切り替えは素晴らしく、一気に現実から映画の世界へと引き込まれていきます。
チョン・ビョンギル監督もこう語っています。
オープニングならば、何の説明をせずとも違和感を抱かせず、観客に受け止めてもらえると思いました。1番気をつけたのは、スクヒの“1人称”から“3人称”の視点に映像を切り替えるポイントです。映画が始まって『一体誰がこんなすごいバトルをしてるんだ?」と思わせておいて、ある瞬間に視点が切り替わり、スクヒの姿が映し出される。そこで観客が一気に物語に入り込めるようにしました」と背景を明かす。
「悪女」の驚がくアクションはどうやって撮った?監督が舞台裏を解説 : 映画ニュース - 映画.comより引用
まんまと監督の思惑にハメられましたね(笑)
「悪いのは、私か、運命か。」
予告編から暗殺者として育てられた女。
標的は最愛だった男。
一人の女性が突き当たる大きな壁での葛藤。
殺し屋が人として生きる道を選ぶ上で切っても切れない縁、彼女の人生に準えながら描かれるリベンジもの映画です。
暗殺者と標的、愛と復讐、過去と現実。
一人の女性が過去を背負いながらも現実と向き合うその決意を表すような凄まじいアクションは一見の価値アリです!