小羊の悲鳴は止まない

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『さがす』ネタバレ感想

目次




初めに

どうも、レクです。
今回はずっと楽しみにしていた片山慎三監督作品『さがす』について語っております。
最後までお読みいただければ幸いです。


※この記事はネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要

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製作年︰2022年
製作国︰日本
配給︰アスミック・エース
上映時間︰123分
映倫区分︰PG12


解説

「岬の兄妹」の片山慎三監督が佐藤二朗を主演に迎え、姿を消した父親と、必死に父を捜す娘の姿を描いたヒューマンサスペンス。大阪の下町に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と言う智の言葉を、楓はいつもの冗談だと聞き流していた。しかし、その翌朝、智が忽然と姿を消す。警察からも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にされない中、必死に父親の行方を捜す楓。やがて、とある日雇い現場の作業員に父の名前を見つけた楓だったが、その人物は父とは違う、まったく知らない若い男だった。失意に沈む中、無造作に貼りだされていた連続殺人犯の指名手配チラシが目に入った楓。そこには、日雇い現場で出会った、あの若い男の顔があった。智役を佐藤が、「湯を沸かすほどの熱い愛」「空白」の伊東蒼が楓役を演じるほか、清水尋也、森田望智らが顔をそろえる。
さがす : 作品情報 - 映画.comより引用





感想

片山慎三監督の長編1作目『岬の兄妹』は2019年映画ベスト10にも入れたくらい好きな映画で、本作『さがす』を楽しみにしていた理由のひとつです。

小規模な上映から、より多くの人に観てもらいたいという思いからネタバレなしの感想ブログを書かせていただきました。
結果的に口コミや映画自体の評価によって公開規模が拡大となったこともあって、評価はどうあれ沢山の方に観ていただいたことは嬉しく思っています。


『岬の兄妹』では
貧困とは生活だけの問題なのか?という疑問に対して、社会的弱者からの視点や健常者が無自覚に抱く障がい者への偏見をブラックジョークを交えて描いた作品だと思っていて、少なくとも長編デビュー作において日本の監督の中では美化せずに人間の本質に迫った振り切った演出が光る監督のひとりだという個人的な認識です。

ちなみに、片山慎三監督・短編映画で『あのこは貴族』岨手由貴子・脚本の『そこにいた男』も実際の事件を扱いながらユーモアを交えた愛憎劇を見せてくれたので、割と楽しんだ側の人間です。



少し話が逸れますが
個人的に韓国映画が好きなのですが、その理由のひとつに倫理観が欠如した容赦ないバイオレンス描写。
もうひとつが、鑑賞後に重くのしかかる余韻。

本作『さがす』は邦画らしくも韓国映画のあの独特な重さにも似た雰囲気。
これは西成という関西では馴染みのあの場所も相俟ってのこと。
何より、邦画で映倫PG12なのにあの攻めた描写や鑑賞後に十分にのしかかってくる余韻があります。

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もう一度言います。
これ、映倫PG12なんですよ(笑)





ということで、本題に入っていきます。

本作『さがす』はポン・ジュノ監督作品『母なる証明』や山下敦弘監督作品『マイ・バック・ページ』などで助監督を務めた片山慎三監督の長編2作目となってます。

『岬の兄妹』と同じく社会的弱者や貧困がひとつのテーマにもなっていますね。
また、劇中での連続殺人事件は日本中を震撼させたある事件を組み合わせたような設定で、『そこにいた男』にも通ずるサスペンスフルな作劇の中で逸脱していく日常やそれによって見えてくる人間性というテイストも本作品『さがす』では活かされていたように思います。



更には、時系列をイジることで映画としての面白さ、ないしミステリーという部分で核になる演出であり、それは片山慎三がタランティーノ好きというのも大きく反映しているように見えます。

ある程度、観客を信じて説明的な回想になっていない時系列の使い方。
台詞で語るのではなく映像で語る。
この語りすぎない演出と観客に伝わりやすい演出のバランス感覚こそが片山慎三の目指すものなのでは?と思わされるほど本作『さがす』は研ぎ澄まされていたと感じました。

この演出力こそ、ポン・ジュノ監督へのリスペクトであり、助監督として培われたセンスなんだと思います。


ポン・ジュノ監督作品『パラサイト 半地下の家族』でも語りましたが、映画という娯楽性を損なわず、ユーモアさを交えながら社会風刺を練り込み、そして日常が非日常へと切り替わるポイントを持ち前の演出力で描き切る。


『パラサイト 半地下の家族』に多大な影響を与えた『下女』。
ポン・ジュノ監督が師と仰ぐキム・ギヨン監督。

そんなポン・ジュノ監督の助監督を務めた片山慎三監督。
こうやって受け継がれていくものってあると思うんですよね。



「邦画ながら韓国ノワールのようだ」と評されていたのは他の方の感想等でも目にしていましたが、そんなことよりも僕が評価したいのはキャラ含む役者の魅力と監督の演出力、そしてプロットの面白さです。

企画の段階で片山慎三監督自身が冒頭の娘パートの短いプロットを書き、それを基にその後どう展開していくのかを共同脚本家やプロデューサーと話し合って脚本づくりを始めたそうです。
初稿は親子と殺人犯の対峙の話で終わっていたそうですが、更に熟考してできたのが本作『さがす』の脚本です。

『岬の兄妹』では片山慎三監督が一人で脚本を書かれたそうですが、これとは異なり本作『さがす』は第三者の客観的な意見が取り入れられていることがひとつ特徴ということですね。



本作『さがす』は簡単にまとめると所謂、三幕構成となっています。
時系列の異なる娘、殺人犯、父親とそれぞれの主要キャストの三者の視点で物語が動かされ、我々観客は一体どうなっていくのか?と親子と殺人犯の関係性に釘付けになっていく。
オーソドックスでありながら、ちゃんと観客を巻き込むエンタメ性とスリラー性を際立たせる構成となっているんですよ。



①娘・原田楓の視点
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セットアップでは片山慎三が初稿で書いた父親と娘の日常。
突如、父親が失踪して娘が父親をさがすという目的。
今まであった日常から大きく逸脱して、父親をさがす娘の姿が描かれる。

娘・原田楓役の伊東蒼さんの演技がとてもいいですね。
𠮷田恵輔監督作品『空白』を鑑賞している方なら、娘の疾走、父親の万引きで肝を冷やしたと思います(笑)

父親とふたり暮らしで、ダメな父親を支えるしっかり者の娘というキャラクターを印象付ける。
また、父の名を名乗る殺人犯との出会いでヤバそうな雰囲気を出してくる。
①では、"もしかして父親は殺人犯に殺されてしまったのでは?"という伏線が張られています。



②殺人犯・山内照巳の視点
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3ヶ月前の殺人犯の逃亡劇。
西成での日雇いの事件やツイッターで自殺志願者を探して遺体をクーラーボックスに保管していたあの事件を思い出させますね。

殺人犯はどうして殺人を犯すのか?
という娘ではなく殺人犯のキャラクター・アークを見せ、この②で更に父親の身を案じる構成となっているのも上手い。

そして、殺人犯の性的倒錯と思想のヤバさを描きつつ、この親子の物語と殺人犯がどう関わっているのか?の疑問を散りばめていく。
②のラストカットの殺人犯と父親の接触で、①の冒頭での父親の台詞の矛盾点に気付かせる。

清水尋也さんの初登場シーンもなかなか痺れましたが、リビドーと殺人衝動に芽生えたあの瞬間は最高でしたよ。



③父親・原田智の視点
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①で父をさがす過程で出会った殺人犯が、何故卓球教室に隠れていたのか?
父親と殺人犯の関係性とは?
①のセントラル・クエスチョンと②のレゾリューション。
隠されていた情報を観客に開示し、物語を解決へと導く。

父親が失踪していた時間に何をしていたのか。
父親の感情の起伏と人間性を露わにしていく。
クライマックスでは、①の娘視点のラストシーンに繋がり、物語の全容が明かされていく。

片山慎三監督が抑揚のない演技を求め、それをしっかりと演じた佐藤二朗さんは流石ですね。



④エピローグ
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事件のその後。
そして、娘と父親のピンポン。



こう見ると、ポスター制作の素晴らしさがわかりますね(笑)







また、同じフレームに主要キャスト3人を同時に収めることをせず、3人の関係性をキーアイテムによって浮かび上がらせていくようにプロットを考えたと語っています。

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確かに、スマホや免許証、掲示板、ピンポン玉、紙幣、ベルトなど、娘と父親と殺人犯を繋ぐキーアイテムはターニング・ポイントで必ず出てきていました。


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同情や正義感、幸せや希望。
人間とは何か、生きるとは何か。
様々な感情が交錯する中で起こった殺人事件の真相。
それを察する娘の感情。

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限られた予算と撮影期間で、日本で実際にあった事件を想起させる脚本を積み重ねて、登場人物の思惑を張り巡らせて練られた高水準な映画だと思います。



終わりに

ということで、考察というよりは自分の感じたものを書かせていただきました。
片山慎三監督の次回作にも期待できますね!


最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。



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