小羊の悲鳴は止まない

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愛は人を狂わせるのか(『ナイル殺人事件』ネタバレ感想)

目次




初めに

どうも、レクです。
今回は延期されて2022年の公開となったケネス・ブラナー監督によるリメイク『ナイル殺人事件』について語っています。

と言っても、もうオチを知っている方も多くおられる作品となっているので、改変点の善し悪しを個人的な視点で述べているだけなので、トリックに関する考察記事ではなく、あくまでも感想になっております。


※この記事はネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要

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原題︰Death on the Nile
製作年︰2022年
製作国︰アメリカ
配給︰ディズニー
上映時間︰127分
映倫区分︰G


解説

ミステリーの女王アガサ・クリスティによる名作「ナイルに死す」を、同じくクリスティ原作の「オリエント急行殺人事件」を手がけたケネス・ブラナーの監督・製作・主演で映画化。エジプトのナイル川をめぐる豪華客船の中で、美しき大富豪の娘リネットが何者かに殺害される事件が発生。容疑者は彼女の結婚を祝うために集まった乗客全員だった。名探偵エルキュール・ポアロは“灰色の脳細胞”を働かせて事件の真相に迫っていくが、この事件がこれまで数々の難事件を解決してきたポアロの人生をも大きく変えることになる。ベルギー訛りの英語と口ひげがトレードマークの探偵ポアロ役を、前作「オリエント急行殺人事件」同様にブラナーが自ら演じた。そのほか、第一の被害者であるリネット役に「ワンダーウーマン」のガル・ギャドット、その夫サイモン役に「君の名前で僕を呼んで」のアーミー・ハマーなど豪華キャストが集結。
ナイル殺人事件 : 作品情報 - 映画.comより引用





感想

まずはTwitterに上げた感想から。



ということで、素直に言いますが…

勿体ない!!!

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ケネス・ブラナー監督の手掛けるポアロシリーズ。
アガサ・クリスティ原作『ナイルに死す』の映画化『ナイル殺人事件』のリメイク第2弾。

エジプトのナイル川をめぐる豪華客船の船内で起こった連続殺人事件を描いています。



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リネット(ガル・ガドット)とその夫サイモン(アーミー・ハマー)は新婚旅行中。
パーティーを開き招いた客たちの中に紛れ込んだサイモンの元恋人ジャクリーン(エマ・マッキー)。
その姿を見てリネットは帰国すると言い出すところから、舞台は豪華客船に移っていくわけですが、その船にもジャクリーンは乗船してくる。

その夜、サイモンとジャクリーンが口論となりジャクリーンが22口径の銃を発泡、サイモンの右足に被弾(オリジナル版では左膝)する。
サイモンが部屋に運び込まれて治療を受けていた間にリネットがこめかみに22口径の銃を突きつけられて射殺されてしまう。



第一の被害者となったリネットとその夫サイモン、その元恋人ジャクリーンという三角関係の構図、関係性はオリジナル版とほぼ同じ。
そして、リネット殺害のトリックも全く同じ内容でした。

ちなみに第二の被害者ルイーズ(ローズ・レスリー)殺害に関しても、犯人を目撃して口封じのために射殺されたオリジナル版と同じ。


物語に大きく関わるオリジナル版からの改変点は
ポアロ(ケネス・ブラナー)自身の冒頭の回想。
ブーク(トム・ベイトマン)の存在(『オリエント急行殺人事件』から継続して登場)。
ネックレス(オリジナル版では真珠)の盗難事件。
サロメ(ソフィー・オコネドー)が第三の被害者ではなくブークがその役を担ったこと。

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この4点で、これこそが本作『ナイル殺人事件』のテーマでもある"愛"をより強調する形として物語に絡ませています。



細かい点を挙げると、トリックに使われた赤いインクなど幾つかの改変もありましたが。

ほかに、部屋に戻ったポアロが洗面台でコブラに襲われそうになる場面。
推理中のポアロの仮説の映像の挿入。
証拠を出せと言った犯人に対してのポアロのハッタリ(射撃残渣の鑑識)。
真相解明後に犯人に銃を取られてしまうポアロの過失。
などなど、これらをカットしてでも登場人物たちの"愛"についてのドラマを紡いだ点は評価できます。


端的に、オリジナル版へのリスペクトも感じつつ、改変点もいい。
ミステリとしての大枠を崩さずに、主題を"愛"に置いて再構築したプロットはケネス・ブラナーらしい。



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脇のキャラクターの"愛"もしっかりと描かれています。

ブークは母マリー(ジェニファー・ソーンダース)の反対を押し切り、サロメの娘ロザリー(レティーシャ・ライト)と恋に落ちます。
リメイク版では実はブークの母はブークの想い人の身辺調査をポアロに依頼していました。
つまり意図的にポアロはこの事件に関わってしまったことになります。

そして、ポアロは親友と呼ぶブークが第三の被害者となったことで怒りを露わにしながらすべての謎を解いて事件解決シークエンスへと入っていきます。





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ただ、Twitterにも書きましたが、この改変点がポアロの推理ショーよりも愛の所在へとウエイトが置かれたために、ポアロの見せ場が1.5倍速に感じられるほど勇み足になってしまってるんですよ。

オリジナル版からの個人的な感覚ですが、本作『ナイル殺人事件』はトリックとしてはそこまで衝撃的なものではないと思っていて。
だからこそ、傍観者であったポアロが知らず知らずのうちに犯人の思惑によって事件に巻き込まれ、そして盗み聞きと鋭い観察眼、頭脳を駆使して犯人を推理するその過程と事件解決シークエンスを見る…つまりはポアロの推理ショーを楽しむ映画なんですよ。

リメイク版はその事件解決シークエンスに含みも余韻も驚きも何もあったもんじゃない。


いやー分かるんですよ。
ポアロの心情も分かるんですけど、もう怒ってるからか早口すぎて、トリックの真相や犯人は誰なのか?など観客のことなんて目もくれず推理をサラッと言っちゃうわけです。

そりゃオリジナル版が有名で、トリックの真相を知ってる人も大勢いるとは思いますよ?
でも、そこを楽しみに来ている初見の観客も一定数はいるはずで。



前作『オリエント急行殺人事件(2017)』では割としっかりと事件解決シークエンスを描きながら、ポアロ自身の価値観を揺さぶる事件となっていました。


この記事でも語っていますが、リメイクすることで古参も新参も楽しめる仕様になっていることが重要なのでは?と思ってしまうんですよね。

このミステリとドラマのバランスが少し問題だったのではないかと観終えた後で考えてしまったことは否定できません。

したがって、オチを知っていても楽しめた『オリエント急行殺人事件』とは違って、本作『ナイル殺人事件』はオチを知っていたら楽しめるかもしれないけどオチを知らなかったらどうなんだろう?という答えになってしまうんですよね。


とはいえ、「人は愛のためなら何でもする」というメッセージが裏を返せば「愛は人を狂わせるのか?」に転ずる多種多様な愛の形を見せてくれたのでその点に関しては満足しています。





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最後に、本作『ナイル殺人事件』は若かりし頃のポアロから物語が始まります。
冒頭で観る映画を間違えたのかと思うほど『ナイル殺人事件』とは無関係の話。

これは前作『オリエント急行殺人事件(2017)』から続投で脚本を担当したマイケル・グリーンがポアロというキャラクターをどう掘り下げるかという発案から作られたもの。
前作『オリエント急行殺人事件(2017)』では偶数やシンメトリーにこだわる几帳面で神経質なポアロ像を描いていました。

本作『ナイル殺人事件』でも偶数にこだわり、冒頭のシーンはラストシークエンスにも繋がるポアロ自身の"愛"の物語の始まりでもあったわけです。


こういう改変点は嫌いじゃないので、ポアロのキャラクターを掘り下げる過程はケネス・ブラナー監督作品のポアロシリーズを通して完結させてほしいと思います。


終わりに

少し愚痴っぽくなりましたが、こう見えてそこそこ楽しんでます。
次回作は『地中海殺人事件』ですかね。
また文句を言うかもしれませんが、次も楽しみに待っています(笑)



最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。



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