小羊の悲鳴は止まない

好きな映画を好きな時に好きなように語りたい。

オチを知っていても楽しめるのか?(「オリエント急行殺人事件」ネタバレ考察)

目次



初めに

どうも、レクと申します。

今回は映画「オリエント急行殺人事件」を交えながら、色々と語っていこうかと思っております。

ネタバレ含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題:Murder on the Orient Express
製作年:2017年
製作国:アメリカ
配給:20世紀フォックス映画
上映時間:114分


解説

1974年にも映画化されたアガサ・クリスティの名作ミステリーをケネス・ブラナーの製作・監督・主演、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファーら豪華キャストの共演で新たに映画化。トルコ発フランス行きの寝台列車オリエント急行で、富豪ラチェットが刺殺された。教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人という目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となってしまう。そして、この列車に乗り合わせていた世界一の探偵エルキュール・ポアロは、列車内という動く密室で起こった事件の解決に挑む。主人公の名探偵ポアロ役をブラナー、事件の被害者ラチェット役をデップ、未亡人役をファイファーが演じるほか、教授役にウィレム・デフォー、家庭教師役にデイジー・リドリー、公爵夫人役にジュディ・デンチ、宣教師役にペネロペ・クルスが配されている。
オリエント急行殺人事件 : 作品情報 - 映画.comより引用


予告編



リメイクの意義

これはあくまで個人的な意見です。

リメイクやリブートなど、新たに作られる作品が多々あります。
よく勘違いされるのがリメイクとリブート。
まずはリメイクとリブートの違いについて。


リメイク
元となる作品の設定を一から作り直す。その他には作品によっても異なるが、基本的なリメイク作品は元となった作品と似たように作られる。元となる作品の設定を一から作り直すという点はリブート・リ・イマジネーションとも似ている。
映画の場合「リメイク」とは、以前に作られた映画を元に作られた作品であり、原作が同じである、あるいは多少参照したといった作品は指さない。全作品のリメイク権を取っているものや、原案としてリメイク元の作品が挙げられているものはリメイク映画と言える。

リブート
再起動。フィクション作品において、シリーズにおける連続性を捨て、新たに一から仕切り直すことを意味する。
リメイクとリブートは設定を一から作り直した作品という点は似ているが、リメイクは作品によって多少異なるものの基本的に元の作品と大体同じような展開・結末となるのが原則であり、元の作品の制約を受けずに独自のストーリーを構築できるリブート作品とはそこが違う。


つまり、リメイクに求められるものとは
目新しさ、思い切った改変などを目的に新しい作品の一つとして作られること。
ではなく、最も重要なことはオリジナル、リメイク共に賑わうことにあるんじゃないでしょうか?

リメイクされることにより、再び古い作品が話題となる。
オリジナルを知らない世代に楽しまれ、そしてオリジナルに興味を持ってもらえる。
オリジナルを知っている世代の方はリメイクされたことにより、新鮮な気持ちでリメイクを心待ちにする。

古参も新参もその両方が楽しめるのがベストだと思っています。



善と悪

さてさて、本題に入る前に少しばかりリメイク作品「オリエント急行殺人事件」について語っていこうと思います。


本作品における最大のテーマは善と悪

オリエント急行に乗る前にポアロは
人は善と悪の二種類しかいないと語りました。
オリエント急行殺人事件はポアロにとっても人生観、価値観を変えた大きな事件の一つなんですよね。


気になったのはシンメトリーを気にするような一面を持つポアロ。

当の本人はネクタイ歪んでるよおおおお!!!

タマゴの高さを気にしたり、両足でうんこ踏むくらいなのにこれじゃダメ!



はい、どうしても言いたかっただけです。

結末は乗客全員が犯人。
死んだはずの人間が実は生きてて真犯人だったの真逆パターン(笑)

ポアロはこうも語っていました。
人を殺めることはいかなる場合も許されない。と。
しかし、結果としてポアロは彼らに罪を問うことは出来ませんでした。


なぜならポアロはラチェットの
顔が嫌い
だったからです。


というのは冗談で、彼らの心情を汲んだのでした。
めでたし、めでたし。

って全然めでたくない!

殺人を許さない絶対正義の信念を信じて止まないポアロ自身の持つ正義の価値観を揺るがすこの事件は、よりポアロの人物像を浮き彫りにします。

ポアロの正義感を覆す殺人事件。
この辺りをもう少し掘り下げるとより良かったようにも思えます。



今回、最も興味深かったのはある事件への関与。
そう、アームストロング誘拐事件です。

この誘拐事件の基になった事件をご存知でしょうか?


誘拐された子供についての情報を求めるポスター

リンドバーグ愛児誘拐事件
1932年にアメリカ合衆国で起こった誘拐殺人事件。捜査によって犯人が特定されたものの冤罪説もある。
この事件をきっかけに、複数州にまたがる誘拐犯行は連邦犯罪であり、自治体警察ではなく連邦捜査局管轄と定める「リンドバーグ法」が成立した。



「オリエント急行殺人事件」の誘拐事件は本事件を参考にしているとされています。

今回、ポアロはアームストロング家より依頼されていたという設定になっています。
また加害者たちはアームストロング家と様々な形で関わり、共犯として殺人を実行しました。

つまり、このさり気ない関係性が、いやこの関係性こそが加害者たちとポアロを繋ぐ重要な部分となっているわけです。
善と悪、罪と罰、ポアロの中で罪悪感というものが少なからずあったのでしょう。

この部分があるからこそ、決して無関係ではないポアロが彼らの殺人を許してしまった理由により一層深みを出したと思うのです。
簡単に言えば神の赦しを乞うってことです。

ポアロの推理は何もかも見通す神の眼のような存在として映し出されると同時に、ポアロはこの事件の真相を神に裁きを委ねるという矛盾した対比が生まれる。
そこにポアロ自身の苦悩と葛藤を表しているのでしょう。



本題

それでは本題に入っていきます。
オチを知っていても楽しめるのか?

映画とは娯楽です。
人生の限られた時間を費やし、真っ暗な部屋に好んで約2時間軟禁される。

楽しまなきゃ損じゃないのか?


自分は基本的に、どんな映画でも楽しもうとするスタンスで映画を観ます。
一般的にクソ映画だと批判されていたとしても、敢えてその映画に飛びつき、そしてダメだったなーとか言いつつも楽しんでます。


本作品「オリエント急行殺人事件」は皆さんがご存知の通り、1974年に公開された作品のリメイクです。
豪華キャストなのはオリジナルもリメイクも変わりありません。

本作品において、オチにばかり目が行きがちですが、原作アガサ・クリスティの描くポアロ像の特徴でもある作中の会話劇も魅力のひとつです。

勿論、ミステリーという分類において、オチは重要な要素であることに違いはないのですが。


それではここで、オチが分かってしまう。
もしくは知っている状態である今作をどう楽しむのか?

ここに焦点を当てて考えてみましょう。



鑑賞前に考えたこと。
オチを知らない体で、周りのオリジナルを観ていない方と一緒に驚いてみせる。

そう、これは鍛え抜かれていない自分自身の演技力が試される高度な映画鑑賞方法ではないのか?

なんて馬鹿なことにも挑戦してみました。



結果。

あえなく撃沈。

なんというか、周りの反応が薄い薄い。
この人達…オリジナルを観ているな?(笑)





というわけで、内容でどう楽しむかに焦点をズラして考えていきます(笑)


・オチが途中で分かってしまう

どんでん返しなどの謳い文句で展開されるミステリーやサスペンスで割とあると思うんですよね、途中でオチに気付いてしまうこと。

オチが弱い。ミステリー要素が薄い。
そんな時、残念な気持ちになることもあるかと思います。
でもそれまでの過程を楽しめませんか?

例えば犯人の使ったトリック。
登場人物の人となりの描写。
容疑者の証言と犯人を特定するヒント。
そして、推理ショー。

オチが全てではないと自分は思っているので、どんでん返しだと言われた方が逆に純粋に観れない気がするんですよ。


好きなサスペンス映画の中に「アイデンティティー」という作品があります。

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この作品の凄いところは作中でオチのネタばらしをしちゃうんですよね。
それでも鑑賞者側が納得してしまう。
それほど脚本がしっかりと作られているんです。

そう、オチが分かっても面白い作品は面白いんです(笑)

当たり前のことしか言ってない。




・オチを知っている

では、オチを知っている場合はどう楽しめばいいのか?
まずキャストで楽しむ(笑)

キャスト
ケネス・ブラナー…エルキュール・ポアロ
ジョニー・デップ…エドワード・ラチェット
ミシェル・ファイファー…キャロライン・ハバード
ジュディ・デンチ…ドラゴミロフ公爵夫人
ペネロペ・クルス…ピラール・エストラバドス
デイジー・リドリー…メアリ・デブナム
ウィレム・デフォー…ゲアハルト・ハードマン
ジョシュ・ギャッド…ヘクター・マックィーン
デレク・ジャコビ…エドワード・マスターマン
レスリー・オドム・Jr.…ドクター・アーバスノット
マーワン・ケンザリ…ピエール・ミシェル
オリビア・コールマン…ヒルデガルデ・シュミット
ルーシー・ボーイントン…エレナ・アンドレニ伯爵夫人
マヌエル・ガルシア=ルルフォ…マルケス
セルゲイ・ポルーニン…ルドルフ・アンドレニ伯爵
トム・ベイトマン…ブーク

キャスト目当てで観ても楽しめるくらいの豪華さ。
そんな豪華なキャストの表情一つ一つ、演技力は言うまでもない。
そこを楽しむのも楽しみ方の一つだと思います。



次に映像とセットの素晴らしさ。
このご時世、CG技術の発達で金をかければ何でも作れてしまう訳ですが、そうは言っても映像美を見せられるだけでもその世界観に浸れるというのも否定はしません。
今作では小道具に至るまで拘りがあり、こういった細部まで気にすることで見えてくるヒントみたいなものが映像に散りばめられています。



またカメラワーク一つ一つにしても、ただ登場人物を映し出すのではない。
映し方一つで登場人物の心理状態や人物同士の関係性、その場の状況に至るまで語られることがあります。

例えば、自分が感じた部分では
ワンカットで映し出す登場人物それぞれの表情にはその場をリアルタイムに描き、緊迫感や緊張感がひしひしと伝わってくる。

頭上からの視点では普段見ることのない視点ということでその場を俯瞰的に見ることが出来る。
これはまるで天から下界を見ている神の視点のようで、ここもテーマと繋がってきますね。
また上から見ることで列車内の構造を瞬時に把握することが出来る。

ラストの最後の晩餐と言われる映像もポアロ自身の神学的思想の部分、そして事件の終焉を示唆させる。などなど。
挙げれば他にもまだまだありそうですが、こんな感じです。



そして、最後は会話劇。
そうです。先程も申し上げましたが、原作アガサ・クリスティの描くポアロ像が魅力のひとつです。
それはポアロ自身の推理ショーも同様。

ミステリー作品の中でも、犯人を謎として解き明かしていく形と、犯人が予め分かっていて推理する形の2パターンありますよね?
その後者は例えば「刑事コロンボ」シリーズや「古畑任三郎」シリーズのようなスタイルです。
こちらは主に犯人の謎解きがメインではなく、探偵や刑事の謎を解く推理ショーがメインなんです。

ちなみに、「古畑任三郎」シリーズの三谷幸喜氏も野村萬斎さん主演でオリエント急行殺人事件を作られています。


本作品「オリエント急行殺人事件」は当然前者です。
しかし、オチを知っている状態では後者にしかなり得ないんです。
つまりは犯人も犯行に至った経緯も知った上で今作を鑑賞しています。

恐らくオリジナルを初めて観た時は謎解き(犯人は誰なのか?)に夢中で翻弄され、その全容は掴めずなかなか意識できませんでした。

また、登場人物の多さもネックで、初見では全てを一気に把握することは難しいと思います。
容疑者12人もいるわけですから(笑)

今回、ポアロを演じたケネス・ブラナーのおかしな顔。
表情と演技。
ポアロの人となり。
そして、推理ショー。
答えを知っていたからこそ、見えてきた景色。
リメイクと言えど初見で推理の過程全てを堪能することが出来たんです。



終わりに

ということで、結論。
オチを知っていてもそれなりに楽しめました(笑)
オリジナルとの間に越えられない壁があるのは仕方ないことで、この手の作品、特にリメイクに求めるのは酷というもの。

しかし、何度観ても楽しめるものは素晴らしいと思います。
何度か観ることによって新たに見えてくる部分は必ずあります。

楽しめたのは勿論、この作品「オリエント急行殺人事件」の持つ作品力であると共に
利己的ではありますが、その楽しみ方を模索した自分への恩恵でもあるのではないかと思っております。


楽しもうと思えば、どんな作品でもとことん楽しめるんですよ。

多分(笑)



次はエジプトで事件が待ってますね!
リメイクが決定している「ナイル殺人事件」も楽しみです。

ここまでお読みくださった方、ありがとうございました。


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