小羊の悲鳴は止まない

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真実はいつもひとつ!(「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」ネタバレ考察)

目次




初めに

こんばんは、レクと申します。
今回は「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」を観てきましたので、こちらの考察をしていきたいと思います。

この記事はネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題︰Knives Out
製作年︰2019年
製作国︰アメリカ
配給︰ロングライド
上映時間︰131分
映倫区分︰G


解説

「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のライアン・ジョンソン監督が、アガサ・クリスティーに捧げて脚本を執筆したオリジナルの密室殺人ミステリー。「007」シリーズのダニエル・クレイグ、「キャプテン・アメリカ」「アベンジャーズ」シリーズのクリス・エバンスら豪華キャストが顔をそろえる。世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの85歳の誕生日パーティーが彼の豪邸で開かれた。その翌朝、ハーランが遺体となって発見される。依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、事件の調査を進めていく。莫大な資産を抱えるハーランの子どもたちとその家族、家政婦、専属看護師と、屋敷にいた全員が事件の第一容疑者となったことから、裕福な家族の裏側に隠れたさまざまな人間関係があぶりだされていく。名探偵ブラン役をクレイグ、一族の異端児ランサム役をエバンスが演じるほか、クリストファー・プラマー、アナ・デ・アルマス、ジェイミー・リー・カーティスらが出演。
ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密 : 作品情報 - 映画.comより引用




ミステリー映画

ミステリー映画といえば、2017年にはアガサ・クリスティ原作「オリエント急行殺人事件」のリメイクが公開されましたね。

また、2019年にも「アガサ・クリスティー ねじれた家」が公開されています。
※こちらはミステリー映画として破綻しているので個人的には評価していません。



早速本題へと入っていきたいのですが、まずはミステリ用語について先に幾つか語っておく必要があります。
この用語を用いた上で考察を進めていきます。
知ってるよ、という方はスクロールしていただいて結構です。


・本格ミステリ

ミステリーの中で最も一般的で且つ古典的なジャンルです。
事件の手がかりをすべてフェアな形で作品中で示し、それと同じ情報をもとに探偵役が真相を推理していく形のものを言います。
欧米ではこれを主にフーダニット(後述)及びパズラーと呼びます。


・倒叙ミステリ

本格ミステリは大抵の犯行は結果のみが描かれます。
例えば殺人事件であれば死体が発見されるなど。
そして探偵役の捜査によって犯人とトリックが明らかになっていく。
この倒叙形式は初めに犯人の犯行を描写し、観客である我々はその事件の犯人と犯行の過程がわかった上で物語が展開されます。
言い換えれば、探偵役の推理ショーが主軸であり犯人の動機など心理描写をより深掘りすることができます。


・密室もの

外部から侵入できない空間、密室内での犯行(密室殺人)が発生し、犯行後に犯人がどうやって外へ出たのかというもの。


・叙述トリック

本来は小説という形式自体が持つ思い込みを利用したトリックです。
例えば、文章における登場人物の話し方や名前で性別や年齢を誤認させたり、無断で時系列を変えることで誤認させたり。
小説だけでなく映像作品においても同様に無断で時系列を変えたり劇中劇を交える方法がしばしば用いられることもあります。


・フーダニット

犯人は誰なのかを推理するのに重点を置いているもの。
探偵役が複数の容疑者から真犯人を探り当てる過程を重視した形式です。


・ハウダニット

どのように犯罪を成し遂げたのかを推理するのに重点を置いているもの。
こちらはあくまでも犯人探しではなくその犯行を推理する過程を重視した形式です。


・ホワイダニット

何故犯人は犯行に至ったのかを推理するのに重点を置いているもの。
犯行方法ではなく犯人像や動機を重視した形式です。



刃の館の秘密

では、本題に入っていきます。
何故、ミステリ用語の説明からさせていただいたかというとですね。


今作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密(以外ナイブズ・アウト)』は複数のミステリー構造を掛け合わせて一つのミステリーとして作り上げた革新的なミステリーだからです。


果たしてこれは王道ミステリーなのか?
否!
難しいことを簡単にやってのけているくらい凄い変則的なミステリーなんですよ!!!



はい、ということでその辺りについてちゃんと語っていきます。



①本格ミステリからの導入とそのタネ明かし

上記でも説明しましたが、この物語の導入は至ってオーソドックス。
冒頭でクリストファー・プラマー演じるハーランの死体を見せられる。

物語上では登場人物の各証言から自殺とされていたハーラン。
そこにミステリにおける探偵役、ダニエル・クレイグ演じる名探偵ブノワ・ブランが依頼を受けてやってくる。
つまり、ここで密室ものでハーランを殺害したのは誰か?という推理が始まるんです。
これが本格ミステリ、フーダニットですね。

探偵役に名探偵ブラン、ワトソン役にアナ・デ・アルマス演じる看護師マルタというこれもミステリーにおけるオーソドックスな形ができるわけですが、ここでハーランの死因をマルタの回想によってタネ明かししてしまうんですよ。



②フーダニットから倒叙ミステリへ

通常のフーダニットなら、犯人及び密室トリックのタネが分かったのでここで物語は解決します(笑)
そこに倒叙ミステリ、ホワイダニットを持ってくることでミステリを繋いでいくんです。
謎の中に謎を隠し、名探偵ブランの推理ショーへと進行していく。



③ホワイダニットからハウダニットへ

厳密に言えば倒叙形式はホワイダニットに多く用いられます。

名探偵ブランの推理が進行していく中で、犯人であると明かされたマルタがどのようにして偽装工作を行ったのか?が回想シーンで明かされます。
ハーランの指示、マルタの行動。
これがその後の展開、推理に大きく影響します。



④再びフーダニットへ

ここでなんと再びフーダニットへと戻っていくんですよね。

マルタへの脅迫の手紙です。
手紙を送ったのは誰なのか?
そして冒頭からの続くもう一つのフーダニット。
名探偵ブランを雇ったのは誰なのか?



⑤更なるフーダニット

脅迫の手紙を送ったのはエディ・パターソン演じる家政婦フランでした。
という事実が明かされ、ここで家政婦フランを殺害したのは誰なのか?
更なるフーダニットから結末へと向かっていきます。



⑥事件解決

クリス・エヴァンス演じるランサムがマルタの医療ミスが原因の死亡事故として処理されるように名探偵ブランを雇ったこと。
そして、マルタの薬を入れ替えていたことが観客に伝えられます。
それを知った家政婦フランを殺害したのもランサム。

マルタが薬を入れ替えられていたことに無意識に気付き、モルヒネではなく鎮静剤を100ミリ投与した事実とハーランがマルタを守るために自殺を図ったこと。
その事実を知ったランサムがマルタを利用し、フランからの脅迫の手紙をマルタへ送り、その上でマルタの無実を証明する証拠を燃やしたことが明かされます。


つまり、ランサムは
ミステリー作家ハーランの殺害(未遂)
看護師マルタの脅迫
探偵ブランの依頼
家政婦フランの殺害

4つのフーダニットの犯人であることも同時に明かされるんです。



もう一度言います。
今作『ナイブズ・アウト』は王道ミステリーなのか?
否!
難しいことを簡単にやってのけているくらい凄い変則的なミステリーなんですよ!!!

王道の本格ミステリでありながら革新的なミステリーへと昇華した素晴らしい作品なんです。



個人的推理ショー

さてさて、ここでもう一つの推理ができませんか?
そう、マルタは遺産を狙った確信犯なのではないか説です。


それにはこの仮定の話が前提となるのですが
マルタは毎日のようにハーランから家族の愚痴を聞かされて、その報復を考えていた。
だからハーランの遺産が自分に来ることを分かっていた上で、そのタイミング(ランサムの自分を巻き込んだ殺害意志)がたまたまやってきてしまったので、それを利用してハーランの意志(遺産相続)を尊重した。
もしかしたらもうハーランは長くなかったのかもしれない。



この映画を観終わって、何故かものすごい違和感を感じたんですよね。
その一つがラストカット。

これはライアン・ジョンソン監督の意図的なものではないとフォロワーさんから聞いたので、偶然そう感じてしまったのかもしれませんが。
あのラストカットでマルタの頭の中ではDEATH NOTEの夜神月ばりに「計画通り」が流れてるように見えちゃったんですよね(笑)





もう一つの違和感が叙述トリックです。

家政婦フランがランサムにモルヒネを打たれ、マルタに発見される場面のフランの台詞。
「You did this.(あなたがやった)」
実は「Hugh did this.(ヒューがやった)」説ですね。


ランサムが家政婦に「ヒュー」と呼ばせていたことから「ユー」と「ヒュー」の叙述トリックとして描かれましたが、ここに素直に頷けなかったんですよ。



ここから僕個人が推察した流れを時系列を追って書き出します。

マルタは薬品を入れ替えられていることに気付いたことで医療ミス及びハーラン殺害を回避。
自殺になるのでマルタが遺産を得る権利を獲得する。
この段階ではランサムはマルタが誤ってモルヒネを注射したと思い込んでいる。

フランが薬品を漁るランサムを目撃。
フランはランサムが薬品を入れ替えてマルタが殺してしまったと考えて、ランサムに脅迫の手紙を送る。

遺産相続の話し合い日、フランはマルタとランサムが共犯だったのでは?と勘違いする。
(ランサムの車でマルタが逃亡した描写から)

よってフランの発言は「ユー(マルタ)」である可能性も浮上する。

名探偵ブランの推理ショー。
マルタはブランの推理まではフランの台詞は「ユー」だと聞こえていた。

ランサムの企てに気付いて利用してたマルタは咄嗟にフランの「ユー」は「ヒュー」ではないのか?と気付いて(勘違いして)ブランに助言。
※実際、「ユー」と聞こえたのは事実で嘘は付いてないから吐かなかった。


フランが脅迫の手紙を出した時間、フランはまだランサムの犯行だと思ってた。
ランサムにモルヒネを打たれた時、フランはマルタも共犯だと疑っていた。
これなら「ヒュー」でも「ユー」でもどちらの発言でもおかしくない。
尚且つ、マルタが犯人であることも変わらない。


結論︰名探偵ブランの言う「間違いの悲劇」がここでも起きていた。
※マルタが遺産目当ての犯行であることを前提に推察したものです。



マルタは物凄く切れ者で適応力があり、機転が利く人物なのでは?と思うんです。
このような考察に至った理由として幾つかの証拠隠滅を図っていること。
ビデオテープ然り、泥の足跡然り。
また、取り調べの際の薬投与のくだり。


ただ、薬の入れ替えに関してはランサムの仕業だと初めから気付いていたというのは少し無理がある。
それは流石に達観しすぎだ。

マルタが確信犯であったと仮定するのなら、ランサムの仕業だと気付いたのはランサムの車に乗り込んだ後の会話シーンから。
騙されるフリをして逆にその事実を利用したと考えられる。

ここでの仮説を立証させるためなら
マルタがランサムの車に乗り込んだシーンは、マルタがランサムの謀略を知っていたからではなく、フランにランサムとマルタが共犯であると勘違いさせるための描写だと思う。




そしてもう一つが、認知心理学の確証バイアスの利用です。

確証バイアスとは、仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のこと。

名探偵ブランは初めからマルタが犯人であるとわかっていたと同時に、殺人を犯すような悪人ではなく善人であることもわかっていた。
だからこそ、マルタが犯人であることの確信がランサムの目論見を最後まで見抜けなかった要因でもあり
マルタが遺産目当ての犯行ではないと思い込んでいたことが、結果マルタにとってプラスに働いたことになると推測できる。


これもあくまでも仮設の話ですが
名探偵ブランは名探偵なのだから推理でミスはしないだろう。
これも確証バイアスであり、マルタ遺産目当て説を見て見ぬフリすることはできませんよ(笑)



ただ、これだけは言える。
物語のテーマでもある『良心に従う』。
ここを考えた時に、本格ミステリという形をしっかりと守ってきたライアン・ジョンソンはミステリーにおける良心に従うだろうと。

どちらとも取れる描き方をしたのならそれはそれでいいんですが、全編を通して見ても恐らくはフェアな描き方を徹底していたのではないかな?とは思いますね。



終わりに

如何でしたか?
少し強引な考察ではありますが、そこまで大きな穴もないと思います。
とはいえ、やはり探偵ものは迷探偵ではなく名探偵であってほしいですね。


真実はいつもひとつ!

ということで、事件解決!
めでたしめでたし(笑)




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