小羊の悲鳴は止まない

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日本版と韓国版の比較(「見えない目撃者」ネタバレ感想)

目次




初めに

こんにちは、レクと申します。
今回は吉岡里帆主演『見えない目撃者』について語っていきます。
若干、韓国映画『ブラインド』と中国版リメイク『見えない目撃者』のネタバレにも触れています。

※この記事はネタバレを含みます、未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


製作年:2019年
製作国:日本
配給:東映
上映時間:128分
映倫区分:R15+

予告編



原題:Blind
製作年:2011年
製作国:韓国
配給:ブラウニー
上映時間:111分

予告編



オリジナルとリメイク


まずですね、オリジナル版の韓国映画『ブラインド』との相違点。
こちらについて語っていきます。



中国版リメイク『見えない目撃者』はオリジナルの韓国映画『ブラインド』よりも人物描写を掘り下げています。
が、オリジナルをほぼほぼ忠実に再現しているために細かい設定はそのまま。
大きな相違点はないので大半は割愛しています。




邦画リメイク『見えない目撃者』
韓国映画『ブラインド』



・プロットの相違点

『ブラインド』と今作『見えない目撃者』は大枠の設定は同じですが、プロット自体は大きく異なります

『見えない目撃者』

警察学校の卒業式の夜、自らの過失で弟を事故死させてしまった浜中なつめ。自身も失明し警察官の道を諦めた彼女は、事故から3年経った現在も弟の死を乗り越えられずにいた。そんなある日、車の接触事故に遭遇したなつめは、車中から助けを求める少女の声が聞こえてくることに気づき、誘拐事件の可能性を訴える。視覚以外の感覚から感じ取った“目撃”情報を警察に提示するなつめだったが、警察は目の見えない彼女を目撃者と認めず捜査を打ち切ってしまう。なつめは少女を救うべく奔走し、事故現場で車に接触したスケボー少年を探し出す。やがて女子高生失踪が関連づけられ、連続誘拐事件の存在が判明。なつめは事件の闇へと切り込んでいくうちに、弟の死とも向き合うことになる。
見えない目撃者 : 作品情報 - 映画.comより引用


『ブラインド』

3年前に事故で視覚を失ってしまったスアは、乗っていたタクシーが何かにぶつかった衝撃を感じるが、運転手は犬をひいてしまったと言うだけだった。不審に感じたスアが執拗に問いただすと、運転手はスアを置いて逃げてしまう。このひき逃げ事件と、世間を騒がせている女子大生失踪事件に何らかの関係があることをつかんだ警察は捜査に乗り出し、スアにも協力を求める。そこへ、ひき逃げ事件を目撃していたという青年ギソプが現れるが、スアとギソプは犯人に命を狙われてしまう。
ブラインド : 作品情報 - 映画.comより引用



日本版では犯人は終盤まで分からず、ミステリー調。
よって、見えない目撃者が"見えない恐怖"に追い詰められる。

犯人の正体が終盤まで隠されているので、観客も主人公たちと同じ状況になり、推理するワクワク感といつ誰に襲われるか分からない恐怖心がより一層高まることになるんです。

一方で、韓国版と中国版では犯人は序盤で明かされ、見えない目撃者が"見える恐怖"に追い詰められる。
非常にスリリングな展開となっています。

"事件の目撃者"というだけではなく、主人公も被害に遭っていたのかもしれないという事実が後半の直接対決を効果的に盛り上げます。


どちらが面白いか?は好みによりますが、ミステリーサスペンスが好きな僕にとってはその両側面を併せ持つ日本版の方を評価しています(詳しくは後述)。
しかし、韓国版も観ると面白いのでプロット自体では善し悪し、甲乙は付け難いですね。

正直なところ、日本版は吉岡里帆というフィルターが加点対象であることは間違いないです(笑)



・設定の相違点


主人公


浜中なつめ
元警察官で文字起こしの仕事をしている。
弟は不良少年。
弟を亡くした事故は車の横転による炎上。
目撃時は犯人の車の後部座席から女性の声を聞く。

スア
警察大学生で復学を目指す。
弟はダンサー。(中国版はミュージシャン)
弟を亡くした事故は手錠で弟の逃亡を阻止、車の転落。
目撃時は犯人の車の後部座席に乗車する。


母からの贈り物


防犯スプレー。

障害物探知の補助装置。


もう一人の目撃者


国崎春馬
スケボー少年。
犯人から金銭を受け取り嘘の証言。

ギソプ
配送員。
報奨金目当てに証言。


警官


木村友一(田口トモロヲ)と吉野直樹(大倉孝二)の警官2人が捜査。
警官の昼食は生姜焼き。

警官1人と主人公で捜査する。
警官の昼食はジャージャー麺。(中国版はニラ餃子)


犯人


正体不明。
特徴はマスク、サングラス、帽子。
身元のバレにくい風俗嬢。
拉致女性はトランクに。
儀式殺人。
匂いはアルコール。
車種はインプレッサ。

初めから顔出し。
特徴は左利き。
無差別に女子大生。(中国版は出会い系アプリ)
拉致女性を轢いてトランクに押し込む。
誘拐殺人。
匂いは消毒液。(中国版は麻酔薬)
車種はプジョー308。(中国版はゴルフ6)



このように細かな設定も異なっており、韓国版、中国版、日本版とどれから観ても楽しめるようにはなっている。

韓国版と中国版では設定や脚本だけでなく、カメラアングルまでそっくりに撮られている。
これは両作ともにアン・サンフン監督が務めているからです。


韓国版と中国版は、日本版と異なり主人公と弟との間に血縁関係がない。
失明した事故の原因も、警官として配属される前に起こした主人公の規律違反が原因。
主人公が聴覚に優れる等の設定はそのままに、韓国版では失明してからも主人公が警官としての復帰を望んでおり、除籍したのは視覚障害が原因ではなく規律違反によって警官としての信頼を疑われて警察学校を除籍されたという厳しい設定となっています。
そして、エピローグでは主人公が警官に復職する描写が挿入される。

それに対して日本版では、主人公が警察官を辞めて文字起こし(警官から離れた仕事)で生計を立てていて、弟に対する罪悪感を抱いたまま日々を過ごしている。
中国版でも警官に復職はせず、主人公の警官としての資質を示しながら警官に復職しないという選択肢が取られている。



最も大きく異なる点が犯人像。

上記に記載した通り、韓国版と中国版では映画の序盤で犯人の顔が明らかにされており、日本版では正体は分からない。

よって、日本版では被害者の声を元に捜査が進むが、韓国版と中国版では犯人の声を頼りに捜査が進む。
中国版では犯人の犯行動機が妹の事故死であるなど主人公との共通点も描写される。

また、犯人が使用した車は車種は違えど3作品ともにハッチバック。
これは、女性を拉致したり運ぶのに適した背面ドアを設けた車種だからですね。


韓国版と中国版では監禁された女性の背景はほとんど語られない。
主人公が監禁されていた可能性もあった事実が犯人との対峙シーンで意味を持つことから、あくまでも主人公と犯人の関係性に焦点を当てて強調されている。
日本版は監禁された女性を助けようと必死になる主人公を通して、警官を辞めても尚残る正義感、主人公の人柄や過去のトラウマを見事に描き、首元までしっかり覆った服装も心を閉ざしていることを暗に示している。
それに加え、劇中で警察学校を首席で卒業していたことが語られる日本版では彼女の洞察力、記憶力、判断力にも充分な説得力を持たせることに成功しています。

日本版ではその犯人像の異常性を描くために、過去の殺人事件の模倣犯、そして儀式殺人という新たな要素が追加されています。
ここが韓国版にも中国版にもないところ。



猟奇的犯行

何度も言いますが、オリジナル韓国版とそのリメイク中国版では、犯人は冒頭に明かされます。
日本版では犯人は正体不明で終盤になるまでは明かされません。

主人公は盲目ではあるが、警官としての素晴らしい資質を持っています。
そこが活かされた展開になっているのも評価しています。
主人公と共に観客が犯人像を推察していく面白さもあるので、ここでは具体的に犯人の名前や正体は明記しません。



では何を書くのか?
それは今作の事件の概要です。

韓国版と中国版では監禁殺人です。
勿論、それだけでも猟奇的というか異常性が高いのですが、日本版はそこにアレンジを加えてより異常性の高い猟奇的な殺人事件としてブラッシュアップされています。

それは"儀式殺人"
これは犯人が過去に目撃者した犯行を模したもの。
つまり、今作の犯人は模倣犯でもあるのです。

それが"六根清浄"です。


六根清浄(ろっこんしょうじょう)とは、人間に具わった六根を清らかにすること。
六根とは、五感と、それに加え第六感とも言える意識の根幹である

眼根(視覚)
耳根(聴覚)
鼻根(嗅覚)
舌根(味覚)
身根(触覚)
意根(意識)
のことである。

六根清浄 - Wikipediaより引用


眼・耳・鼻・舌・身の5つを五根といい、人間の感覚能力、すなわち五感のこと。
意は認識するはたらきの拠り所となる感官で、六根がその対象に対する執着を断って浄らかな状態になることを六根清浄または六根浄といいます。

これは"パーリ経典"と呼ばれる南伝の上座部仏教に伝わるパーリ語で書かれた仏典に収録されている"六六経"に記載されています。




眼・耳・鼻・舌・手・脳。
それぞれの部位を切り取り、仏に供えることを目的に殺人事件が展開されていきます。

この儀式に何か意味があると思うじゃないですか?
一般的に考えるなら、神や仏に生贄を捧げることで願いを叶えるとか。
過去に目撃した事件を自らの手で達成することで、自身を浄化できると思ったとか。


この"六根清浄"という儀式殺人ですら、今作の犯人にとっては単なるきっかけ、"殺人を行うための口実"にすぎないんですよ!

めちゃくちゃ異常性高くないですか?(笑)
ここに痺れましたね!

無表情で人を殺す姿、絶対に走って追いかけない姿、この恐怖心を煽る威圧感は必見です。



日本版を評価する理由

韓国版のリメイクということで、中国版と同じ立ち位置となる今作の邦画リメイク『見えない目撃者』。
オリジナルの韓国版やリメイクの中国版よりも日本版を評価している理由はずばりただのリメイクではないからです。

これは2017/06/10に日本で公開された『22年目の告白 私が殺人犯です』での韓国映画の邦画リメイクの成功が下敷きにあると思います。


この『22年目の告白 私が殺人犯です』と同様に
ひとつの邦画として単品でも楽しめる仕様になっていること。
尚且つ邦画リメイクを鑑賞後にオリジナルを鑑賞しても楽しめること。
リメイクとしての価値を見出し、オリジナルをリスペクトした上で大胆にアレンジを加えたこと。
その改変がしっかりと劇中の演出や伏線として効果的に機能していること。


母からの贈り物は韓国版、中国版、日本版共に犯人に対抗する武器として機能するわけですが
韓国版と中国版の障害物探知の補助装置はクライマックスの犯人との対峙で使用されています。
日本版の防犯スプレーは地下鉄で襲われた時に使用され、クライマックスの犯人との対峙では亡き弟の形見が使用されています。

弟への罪悪感や過去のトラウマを払拭する細かな設定の改変が本当に見事。


更にいえば、今作の脚本家・藤井清美である『ミュージアム』にも近い不気味な雰囲気を醸し出し、"猟奇殺人事件"というテーマで秀逸な演出を誇る韓国映画に劣らない演出を実現することに成功しているんです。



勿論、気になる点はいくつもあります。
整合性の取れない部分、予定調和な部分も多々あります。

例えば、犯人のいる監禁場所に車で真ん前まで行ったらバレるだろとか。。。
しかし、そんなことを気にさせないほどに緊迫感で物語に引き込む力がこの映画にはあります。

また、タイトルも中国版リメイクの邦題そのままであることや、韓国版と中国版の良い所取りをした設定である部分もあります。
リメイクというメリットを存分に活かした作品という見方もできると思います。


以上が、個人的に韓国版や中国版よりも日本版を評価している理由です。



ただ、残念なのが犯人役の配役。
ここだけですね。。。

そこも、終盤に劇中で犯人の正体が明かされ、オリジナル同様にその犯人に主人公が襲われる恐怖に転調するので差ほど問題ではないのですが。
せっかく邦画リメイクとして大胆にアレンジし、犯人を推理させる構成にしたにも関わらず犯人を予測出来てしまうのは勿体ないかと。

この映画は、猟奇殺人事件を通して主人公がトラウマを克服する物語なので、謎解きの面白さやどんでん返しのように真犯人の意外性を期待して観てしまうと少しガッカリしてしまうかもしれません。



終わりに

韓国映画大好きな僕がオリジナル韓国版よりも邦画リメイクの日本版を好きになったということは、自分の中でも非常に貴重なこと。

日本の映画界はこの路線にも注力してもらいたいですね。
邦画にも韓国映画にも素晴らしい作品は多く、邦画リメイク及び韓国版リメイクとして日韓両作の認知を上げていって貰いたいというのが僕の希望でもあります。


最後までお読みくださった方、ありがとうございました。




(C)2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C)MoonWatcher and N.E.W.