小羊の悲鳴は止まない

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「8年越しの花嫁 奇跡の実話」ネタバレ感想・考察

目次


初めに

こんにちは、レクと申します。
今回は「8年越しの花嫁 奇跡の実話」を観てきました。

初めに申し上げておきますが
実話ということ。
そして感動する、泣ける映画という謳い文句の映画では私、あまり泣けない方でございます。

…泣いた。


出オチ感すごいですが、その事を踏まえた上で最後までお付き合いくだされば幸いです(笑)

この記事はネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


製作年:2017年
製作国:日本
配給:松竹
上映時間:119分
映倫区分:G


・解説

YouTube動画をきっかけに話題となり、「8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら」のタイトルで書籍化もされた実話を、佐藤健&土屋太鳳の主演で映画化。結婚を約束し幸せの絶頂にいた20代のカップル・尚志と麻衣。しかし結婚式の3カ月前、麻衣が原因不明の病に倒れ昏睡状態に陥ってしまう。尚志はそれから毎朝、出勤前に病院に通って麻衣の回復を祈り続ける。数年後、麻衣は少しずつ意識を取り戻すが、記憶障害により尚志に関する記憶を失っていた。2人の思い出の場所に連れて行っても麻衣は尚志を思い出せず、尚志は自分の存在が麻衣の負担になっているのではと考え別れを決意するが……。「64 ロクヨン」の瀬々敬久監督がメガホンをとり、「いま、会いにゆきます」の岡田惠和が脚本を担当。
8年越しの花嫁 奇跡の実話 : 作品情報 - 映画.comより引用


・予告編




泣ける作品とは何か

まずですね、言葉は悪いかもしれませんが実話であるという事実は自分にとっては些細なものなんです。

勿論、病気を患いながらも治療し、努力を積み重ね、幸せな家庭を築いた麻衣さんも、麻衣さんを支えたご家族と尚志さんも本当にすごいと思います。
ただこれは作中にあったように我々との間には「家族ではない」という大きな壁があって、その心境、胸中の想いはそこに立ち会った人にしか分からないものだと思ってます。

いくら感傷的になったとしても、第三者である以上、その事実はなかなか埋まるものでは無い。


よく、感情移入という表現がされて「泣けなかった」や「感動しなかった」といった感想を目にすることがあります。
演出や演技によってはそう感じることもあるでしょう。
そもそも、自分は普段から俯瞰的に見てしまっているのかもしれません。

今作において、泣いた、泣いてしまった理由は知らず知らずのうちに映像や演出により感情移入してしまっていたのかもしれない。



映画とは感じるまま、感情的に受け取ることが純粋な感想、理想的な鑑賞方法ではないか。

子供の頃に観た映画はそうでした。
頭では考えず、純粋に心で感じたまま「面白い」「楽しい」「つまらない」といった感想が出てきました。

しかしながら、大人になるにつれて感じることよりも考えることが優先され、純粋に楽しむということができなくなってきているのも事実です。

此度は考えることよりも感じたことの方が多かったように思えます。
それが自分にとっての泣ける映画のひとつの基準なのかもしれません。



では一体この作品のどこが自分にとっての泣けるポイントだったのか。
先程、感じたと言いましたが、その部分について理性的に考えてみたいと思います(笑)

直感より考えて動くタイプなのですみません。



まず特筆すべきは主演の佐藤健さんと土屋太鳳さんの演技ですね。

佐藤健さんはどこか気弱で、それでも心に一本芯の通った好青年を演じきり、頼りない感じに見えてもしっかりと相手のことを考えることの出来る包容力を感じました。
苦しい時ほど笑顔を見せ、深い愛情というよりも心が強い人なんだなあという印象です。

土屋太鳳さんは飛び抜けて可愛い笑顔は置いといて(笑)
発症前後のギャップ。
明るくアクティブなイメージを覆すほどの発症時の迫真の演技。
回復の兆しが見えてからの尚志を見る表情はまるで別人のようです。


また、麻衣のご両親、尚志の職場の方々、ウェディングプランナー、周りを取り巻く人達も二人を想う気持ちが見て取れる。

恋人同士の愛だけではなく、二人を支える周りの愛も感じられました。



麻衣さんが発症した原因不明の病は「抗NMDA受容体抗体脳炎」というものだそうです。

抗NMDA受容体抗体脳炎
脳の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体、NMDA型グルタミン酸受容体に自己抗体ができることによる急性型の脳炎である。致死的な疾患である一方、治療により高率での回復も見込める疾患である。卵巣の奇形腫などに関連して発生する腫瘍随伴症候群と考えられているが、腫瘍を随伴しない疾患も多数存在している。2007年1月ペンシルバニア大学のDalmau教授らによって提唱された。ある日から突然、鏡を見て不気味に笑うなどの精神症状を示しだし、その後、数か月にわたり昏睡し、軽快することが自然転帰でもあるため、過去に悪魔憑きとされたものがこの疾患であった可能性が指摘されており、映画『エクソシスト』の原作モデルになった少年の臨床像は抗NMDA受容体抗体脳炎の症状そのものと指摘されている。また、興奮、幻覚、妄想などいわゆる統合失調症様症状が急速に出現するのが本疾患の特徴であるため、統合失調症との鑑別も重要である。
Wikipediaより引用


別名「エクソシスト」とも言われ、病院に運び込まれた時は目の色が変わり、まさに悪魔憑きのようでしたね。


Warner Bros. Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

映画『エクソシスト』写真005 - シネマトゥデイより引用



タイトル「8年越しの花嫁」。
着地点の決まった映画では、その結果は安易に想像出来てしまうというデメリットがあります。
言い換えればオチが分かってしまっているわけです。

そんな中で、如何にその結末へと向かう過程を描くことが出来るか?が決め手となるわけですが、その過程ひとつひとつの細かな演出が素晴らしいんです。


そのひとつに視点があります。
一見、同じようなシーンを繰り返しているように見せながらもその視点を少しずつ変え、場面場面での意味合いを強めています。


初めは何気なく観ていたんですが、途中でふと気付かされるわけです。
「あれ?さっきと同じような映像なのに全然雰囲気が違うな」って。




感動のシーンなんかではこの演出が物凄く心を揺さぶられるわけですよ。
役者陣の表情ひとつ取ってもそう。
同時にその時の彼らの心境が垣間見えてくるんです。





いつか目を覚ますと信じていた尚志は麻衣が昏睡状態になって1年が過ぎたある日、麻衣の両親から、思いもよらぬ言葉が。

自分の人生を寝たきりの娘に費やしてくれる尚志を見ているのが耐えられなかったのでしょう。
この時のご両親の気持ちは感謝と申し訳なさと悲しみと…様々な感情が入り交じっていたと思います。

それでも尚志は傍に寄り添うこと、麻衣とご両親と家族になることを選びました。

もう会わないでくれと言われた尚志が、病室で麻衣の母親と会った時のお母さんの「ありがとう」が今でも忘れられません。

…泣いた。


尚志の言葉を借りると「麻衣が一番苦しんでいる。」
それは分かるんですが、実際には尚志さんよりもお母さんの方が苦しかったんだと思います。

実際に娘の卵巣摘出手術の話が出た時も、尚志に「家族じゃないんだから」と綺麗事では済まされない家族の心情を口にしています。
心労と疲労は想像以上のものだったことでしょう。

そんな麻衣の母親を演じた薬師丸ひろ子さんの凄いところは麻衣が病を発症する前、入院中、リハビリ中とその後、その8年という歳月を表情ひとつで物語ってるんですよ。



そして端折りますが様々なやり取りがあって、結果として一旦離れることとなった尚志と麻衣。
このシーンの長回しは本当に素晴らしい。

…泣いた。


別れを告げて帰宅する尚志はハザードを付けて路肩に停車。
運転席で涙を零します。

尚志さんの生真面目さと純粋な心を佐藤健さんが上手く演じておられますね(笑)

…泣いた。


麻衣は例の結婚式場で尚志の行動を知ることになりました。
毎年、出会った日である3月17日に予約を入れていたこと。
そして0317という数字が今までの二人の空白の時間を埋めるかのように携帯に送られていた動画で映し出されます。

…泣いた。


この時の土屋太鳳さんの表情ったら、ね。
笑顔の印象が強い彼女のこの涙が、携帯の動画と共に尚志の行動が一気にフラッシュバックされて。

ここ一番泣いたシーンかもしれない。


そうなんです。
今まで見せられていた映像全てがこのシーンへの布石なんです。
この8年という歳月を積み重ねてきた過程に涙が止まらなかったんですよ!



尚志と再開した麻衣は自ら傍へと向かい、支えられながらも一歩ずつ前へと歩み始める。

一人ではなく二人で、同じ歩幅で、同じ速度で。
失ってしまった時間を取り戻すのではなく、新しい時間を築き上げていく。


そこで出会った時のあの土屋太鳳さんの笑顔のフラッシュバックである(笑)

そこからラストのウェディングドレスに身を纏った純白の姿と眩いばかりの笑顔にすべてが救われた気持ちになりました。



余談

この作品は単なるお涙頂戴映画ではないと思う部分がいくつかあります。


物語の始まり、二人が出会ったのは2006年。
その時代背景がしっかりと作り込まれていること。

服装や携帯は勿論のこと、初デートで駐車場に止まっている車の車種や麻衣の車。
細部に渡ってその時代に合った演出がされているんです。

そして、まさかの主人公の車がハチロク
職場の社長が2000GT

心地よいエンジン音に車好きも大満足間違いなしです!(笑)



小豆島での2000GT納車。
このシーンは本筋としてはズレたシーンなんですが、尚志が麻衣のご両親から会わないでくれと言われてから自分の気持ちを再認識する貴重な時間なんですよね。

そしてその島の自然の美しさと心落ち着ける場所は終盤でのシーンに繋がっていきます。



ラストのシーンで出てきた小豆島のブランコ。
4つ並んだうちの1つが壊れていましたね。
これは尚志を含む麻衣の家族のメタファーで間違いないでしょう。

故障した1つのブランコを修理。
尚志が面接で語ったとされる
「壊れたら直せばいい。」
直ると信じる気持ちがあれば必ず修復できると熱く語られたように、一度は地に落ちたブランコも修理されて新しいものとして生まれ変わりました。

新しいブランコだけ、元あった位置よりも少し高さが低いのにお気づきになられましたか?
これはゼロからのスタートではなく、マイナスからのスタートであることを示したものではないだろうか。

麻衣さんの新たな人生のスタートを暗示すると共に、4つ並んだブランコは4人が家族として今後の人生を歩んでいくことを表したものでしょう。



終わりに

グダグダと書き綴ってきましたが、本当にここまで泣いたのは久しぶりというか自分でもここまでグッと来るものがあるなんて思ってもみなかったんで驚いてます。

強引に泣かせようとしたものではなく、淡々と過ぎていく日常の中で映像により見せる細かな演出が自分の心を揺さぶったのだと思っています。

本当に素晴らしい作品でした。
昨年に観ておくべき映画だったかもしれません(笑)



最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。




(C)2017映画「8年越しの花嫁」製作委員会