小羊の悲鳴は止まない

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過去を忘れて未来へ進む(『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ネタバレ感想)

目次




初めに

どうも、レクです。

先日、映画007シリーズのマラソン全24作を観終え、IMAXで『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(以下『NTTD』)を観てきました。

Twitterにも感想を上げましたが、個人的な感想としては酷評ではなく「この結末か…」という残念な気持ちが大きいのです。

ネタバレを気にすると抽象的に話さなければならないので、伝わらないことも多いと思います。
ここからはネタバレありで『NTTD』について思うところを語っていきたいと思います。

『NTTD』及び『スカイフォール』が好きな方は気分を害されるかもしれません。
あくまで個人の意見なのでそのまま無言でUターンをお願いします。


※この記事は新作及び過去作についてもネタバレを含みます。
未鑑賞の方はご注意ください。




作品概要

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原題︰No Time to Die
製作年︰2021年
製作国︰アメリカ
配給︰東宝東和
上映時間︰164分
映倫区分︰G



解説

ジェームズ・ボンドの活躍を描く「007」シリーズ25作目。現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フェリックス・ライターが助けを求めにやってきたことから、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになるが……。ダニエル・クレイグが5度目のボンドを演じ、前作「007 スペクター」から引き続きレア・セドゥー、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ロリー・キニア、レイフ・ファインズらが共演。新たに「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」のアナ・デ・アルマス、「キャプテン・マーベル」のラシャーナ・リンチらが出演し、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレックが悪役として登場する。監督は、「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガ。
007 ノー・タイム・トゥ・ダイ : 作品情報 - 映画.comより引用





『スカイフォール』の功罪(罪)

『NTTD』がどうこうと同時に話さなければならないことがあります。
それが『007/スカイフォール』の功罪について。

流れ上、先に罪の部分を。
後半に功績の部分をかいております。
批判的な意見が読みたくない方は、前半は飛ばして後半の褒めをお楽しみください(笑)





正直なところ、『スカイフォール』は映画として面白いと思います。
しかし、この『スカイフォール』によって『スペクター』ないし『NTTD』が個人的に低評価となってしまった大きな要因でもあるんです。


まずはTwitterに上げた『NTTD』の感想を貼りましょう。


はっきり言って『スカイフォール』の評価を下方修正しなければならないとさえ思ってしまいました。
感想にも書きましたが、『スカイフォール』で全盛期を描かなかったことがその後の展開の幅を狭めてしまっているんですよ。
つまり、『スペクター』『NTTD』ともに描けるものが少なく、結果、あの結末という選択肢も上がってきちゃうわけです。
そう、踏み入れてはいけない領域【ボンドの死】です。




映画007シリーズとはボンド役及び他キャスト陣が交代してもその世界観を大きく崩すことのないスパイアクション映画です。
初代ショーン・コネリーから始まり、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナン、ダニエル・クレイグとジェームズ・ボンドは受け継がれてきました。

だからこそ、前任のボンド役が人気またはイメージを確立している役者であったレーゼンビー、ダルトン、クレイグは現に非難されています。

ダニエル・クレイグは当初、金髪ボンドということで世間からは酷い扱いを受けてきました。
そんな世間の声を黙らせたのが『カジノ・ロワイヤル』。
この作品は自分も傑作だと思っています。
一般的に評価の低い次作『慰めの報酬』とセットで。



往年の007はほとんどが現役の英国諜報部員として活躍しているボンドを描いています。
だから役者が変わってもジェームズ・ボンドとして見られる、良い意味でのリアリティラインが低い作品。

そう、『カジノ・ロワイヤル』からダニエル・クレイグという新たな007として再構築した物語がスタートしたわけですね。
今までのユーモア性を排除し、現代に合わせたスパイ映画を。
最高のスパイとして活躍するジェームズ・ボンドを誕生譚から描くことで非常に人間味の溢れるキャラクターへと作り変えていったわけです。

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Casino Royale (C)2006 Danjaq,LLC,United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries,Inc


「さあ、ここからダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドとして活躍するぞ!」と思っていたら
『スカイフォール』で晩年期を、『スペクター』では引退(実質00の死)を、そして『NTTD』でボンドの死を描いてしまった。
実際には過去に『消されたライセンス』や『ダイ・アナザー・デイ』でもボンドが殺しのライセンスを取り消される作品はあります。
引退も『女王陛下の007』で描かれてきました。
『スペクター』でこの選択をしたこと自体はいいと思っています。

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SPECTRE (C) 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved


ただ、『NTTD』の結末、これをやられると別物の映画だとわかっていたとしても007シリーズとして変な意識が生まれてしまうんですよ。
【ボンドは死んだ】って。
『007は二度死ぬ』とはわけが違うんですよ。
もう一度言いますが、踏み入れてはいけない領域なんですよ。



そうなると『スペクター』『NTTD』だけでなく、今後の007シリーズが【ボンドの死】というイメージを払拭しなければならなくなり、非常に描きにくくなるんですよね。

単純にこの『NTTD』の結末を描くのは早いと思うんです。
シナリオ上、人の死は簡単に使うことができます。
ただ、人を死なせたからにはその責任は重いということを作り手は自覚しなければならないし、『ワイ◯ピ』のように簡単に生き返らせてはいけないんです(笑)

今後、前日譚以外の007シリーズを作らないのであれば、この終わり方で有終の美とも呼べるでしょうが。
なんですかあの最後のテロップ「ジェームズ・ボンドは帰ってくる」って。
笑えない冗談でしょ。

そういう意味でも間口を狭めた『スカイフォール』の罪は重い。



『スカイフォール』の功罪(功績)

さて、ここからは『スカイフォール』の功績について思うことを書いていきます。


『NTTD』は特にラストシークエンスの流れが実にエモーショナルですよね。

『スカイフォール』で晩年期を描いたからこそ、ボンドの引退から死という一連の流れも作れたわけで。
このドラマ性と6代目ボンド、ダニエル・クレイグの引退作が相俟ったラストシークエンスのエモさは評価したいです。


ダニエル・クレイグ、本当にお疲れ様でした!



えー、『スカイフォール』の功績はこれだけです(笑)


あとは感想にも書きましたが、『スカイフォール』自体は現代におけるスパイ映画007の存在意義を示すものだと思います。
世代交代を裏側ではなく劇中で描いた新鮮味とひとつの映画としても面白いということくらいか。


NTTDの短評

クレイグ1作目『カジノ・ロワイヤル』でヴェスパーという心から愛する女性と出会ったボンド。
彼女に裏切られ(厳密にはボンドを助けるため)、彼女は死んでしまった。
最愛の人を失った悲しみを背負い、自分と似た境遇の女性カミーユと出会って『カジノ・ロワイヤル』、ヴェスパーのケリをつけたのが『慰めの報酬』。
『スペクター』でマドレーヌという女性に出会い、恋に落ちる。

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Casino Royale (C)2006 Danjaq,LLC,United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries,Inc

こういう流れだと思っていたんですが、未だにボンドはヴェスパーのことを未練タラタラに想っていたんですね。
『NTTD』ではヴェスパーのお墓がある街で"過去を忘れて未来へ進む"。
ここでマドレーヌの過去が現在と繋がっていくわけですが。


マドレーヌを簡単に疑ってしまうほどヴェスパーに裏切られたことを引きずってた割に、お墓の前で紙燃やしてお墓を爆破された後、ヴェスパーのヴェの字も出さないボンドは簡単に過去を忘れ過ぎじゃない?とも思った。
最愛の人のお墓を爆破されたら憤慨ものだけど、再びエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドと対面しても何も言わないし。
あの怒りはマドレーヌを罠にはめて二人の仲を引き裂かれたことへの怒りでしょ。

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忘れたらもう過去の人はどうでもいいの?
ヴェスパーを超えるキャラクターを作り出せず、ヴェスパーに囚われ、散々ヴェスパーを利用してきた制作陣に嫌気が差した。


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他にもセキュリティ面や敵の行動理念の弱さなども気になる。
ドラマ面を脚本が足引っ張ってる感じでそんなボンドから愛してるとか言われても、なんか感情的に入り込めないんですよ。


『スペクター』の劇中でも語られましたが
この結末でどのような感情になったとしても、"惨劇から生まれる美"とは自分は一切思えませんでしたね。

せめて最期はボンドに子供は抱かせてやってくれよ…。
せめて最期はボンドに子供の声を聞かせてやってくれよ…。


終わりに

ということで、好きな方は本当に申し訳ないですが、この結末はダニエル・クレイグのボンドシリーズとしては選択肢としてあるものなので仕方ない面もありますが、んー…。

やはり原因は『スカイフォール』から。
結果的に「まだ見たくなかった」というものを3作連続で見せられた感じです。


"過去を忘れて未来へ進む"
次のボンドは一体誰になるのでしょうか。
今後の007シリーズに一抹の不安はありますが、楽しみにしているのも事実です。
次は頼むぞ、バーバラ!



最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。



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