小羊の悲鳴は止まない

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完結にして連結(『ムカデ人間3』ネタバレ考察)

目次




初めに

いつもありがとうございます、どうもレクです。

先日、『ムカデ人間』でヨーゼフ・ハイター博士役を演じられたディーター・ラーザーさんがお亡くなりになったという訃報を目にし、書く予定のなかった『ムカデ人間3』の考察ブログを書くことを決意しました。

この記事は『ムカデ人間3』のネタバレは勿論のこと、シリーズ物ということで『ムカデ人間』及び『ムカデ人間2』もネタバレを含みます。
いずれも未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要


原題︰The Human Centipede III (Final Sequence)
製作年︰2015年
製作国︰アメリカ・オランダ合作
配給︰トランスフォーマー
上映時間︰108分
映倫区分︰R18+


解説

人間の口と肛門をつなげるというショッキングな内容で話題を集めた問題作「ムカデ人間」シリーズの第3弾。暴動数、医療費、離職率が全米ワースト1になってしまった刑務所の所長ビル・ボスは、州知事から解雇通告を受けてしまう。囚人たちをうまく手なずけることができず困り果てていたビルに、忠実な部下ドワイトがあるアイデアを提案。それは映画「ムカデ人間」をヒントにしたもので、囚人たちに究極の罰と抑止力を与えるばかりか食費さえも節約できる夢のようなアイデアだった。ビルとドワイトは、500人もの囚人たちをつなげて「ムカデ囚人」を作り出そうとする。第1作でハイター博士役を演じたディーター・ラーザーが刑務所長ビル役を、第2作でマーティンを演じたローレンス・R・ハーベイが部下ドワイト役を演じた。第1作でムカデ人間の先頭をつとめた日本人俳優・北村昭博も登場。監督・脚本は前2作も手がけたトム・シックス。
ムカデ人間3 : 作品情報 - 映画.comより引用




過去作との比較

さて、本題に入る前に。
今回の記事では当ブログの過去記事についても触れておりますので、未読でしたら一度お目通しいただけると幸いです。



ということで、『ムカデ人間』の考察はほぼネタとなっております。
『ムカデ人間2』の考察は割とガチでやりました。

今回はどちらになるでしょう?





『ムカデ人間』シリーズ完結ということで、ネタも放り込みつつガチで考察にしていきたいと思います。
とは言えですね、困ったことに『ムカデ人間3』は前2作に比べると本当にキツい内容なんですよ。

あ、描写が、ではなく映画的に(笑)

強調するなって話なんですが、端的につまんないんです。
が、そこにこそ魅力を見出してこその『ムカデ人間』好きではないのか?
と自身を鼓舞して書いていきます!!!



今作『ムカデ人間3』にも『ムカデ人間』の博士役、ディーター・ラーザーが所長として出演されていますね。

『ムカデ人間』の日本人カツロー役、北村昭博や『ムカデ人間2』のマーティン役、ローレンス・R・ハーベイも出演と『ムカデ人間』ファンとしては嬉しいキャスティング。

ただ、三部作それぞれの作風を変えたいということで、役柄も性格も異なった配役となっているそうです。



えー、ということでヨーゼフ・ハイター博士及びビル・ボス所長(ディーター・ラーザー)に黙祷を捧げたいと思います。



黙祷・・・


































天国で見てくれてますか博士ー!!!

ということで、今作『ムカデ人間3』のコンセプトは「ぜ・ん・ぶ・つ・な・げ・ま・し・た」です。

僕が好きな映画館、京都みなみ会館(旧館)ではこんな狂ったイベントが開かれていたくらいの魅力作なんですよ(笑)

みなさん、『ムカデ人間』の繋がりを絶やさぬ為にも、是非『ムカデ人間』シリーズを観ましょう!!!
と宣伝してください(笑)



前置きが長くなりましたが、ここから本題です。

舞台はアメリカの刑務所。
そこには凶悪な男囚人たちが収監されているんですが、この刑務所は全米で最も職員の離職率が高く、釈放された囚人の再犯率も異常で出所後の再収監率が全米で一番高い。
その上、所長が変態で、囚人たちを拷問するため医療費も全米一。


(C)荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS / 集英社

ビル所長の刑務所はァァァァァァァアアア全米一ィィィイイイイ!!!
…状態です(笑)



所長はこの問題を解決するために全囚人を去勢することを考えるが、そこで出てきたのが

我らがマーティン(『ムカデ人間2』)ではなく、『ムカデ人間』シリーズのファンである刑務所の会計士のドワイトです。

『ムカデ人間』こそ最高の抑止力だと力説するドワイトの可愛さには萌えますよ(笑)



それでなんやかんや(割愛)あって、トム・シックス監督の有り難いお言葉「私の映画は100%医学的に正確」もいただき、囚人500人を全員繋げてしまうという暴挙に出るといった流れですね。



今作『ムカデ人間3』は前作『ムカデ人間2』と同様に主人公による『ムカデ人間』の模倣です。

ただ、前2作との最も大きな違いは、刑期を終えた囚人は出所しなければならないため、取り外しが可能だということ。
実際に歯を抜かずに口を開けたまま縫合。
膝の靭帯も切らず、関節を麻痺させる形を取っています。

また、後方になるほど死亡率は高まるという『ムカデ人間』の僕の考察結果も今作『ムカデ人間3』ではビタミン剤を投与するなどでカバーしています。

比較は『ムカデ人間』の考察記事にて。


『ムカデ人間2』との比較に関しての相違点は『ムカデ人間2』では『ムカデ人間』が好きなマーティンの理解者は自分だけであったのに対し、今作『ムカデ人間3』では『ムカデ人間』が好きな人間に同意する人間が現れること。

『ムカデ人間2』では『ムカデ人間』が大好きなマーティンが隠してあった『ムカデ人間』の資料が母親にバレてしまうシーンが挿入されます。


(C)2011 SIX ENTERTAINMENT


(C)2011 SIX ENTERTAINMENT

今作『ムカデ人間3』では所長に『ムカデ人間』を薦めた会計士ドワイト、そして『ムカデ人間』の監督作トム・シックス本人だ。


『ムカデ人間』に影響を受けた人間が如何に変態的素養を得たのか?に対して『ムカデ人間2』と『ムカデ人間3』は別の答えがあると思います。


映画が悪影響を及ぼすのではなく影響を受けた人間が問題なのだということが『ムカデ人間2』でのメッセージであり、『ムカデ人間3』ではその影響を受けた人間が更に第三者へ影響を与える、影響を受けてしまう人間が出てくること。
そして『ムカデ人間』でハイター博士役のディーター・ラーザーが『ムカデ人間3』では所長役、『ムカデ人間』大好きなマーティン役ローレンス・R・ハーヴィーが『ムカデ人間3』でも『ムカデ人間』シリーズ大好きなドワイト役を担っていること。


このことから

『ムカデ人間2』は犯罪を犯す人間への批判。
『ムカデ人間3』では再犯及び模倣犯に対する問題視がメッセージ。

と考えられます。


また、犯罪抑制のために超法規的な暴力によって支配すること、権力を持った独裁者を産んでしまうという皮肉にもなっていますね。
アメリカが製作国に関わったことで、その社会問題の含意があからさますぎて前作までのキレは薄まっている印象ですが。



監督のメッセージ

トム・シックスの考える映画とは。

万人受けすることを目的に作られた映画は興行収入を得ることだけが目的だ。
ある一定の人たちが作る民衆的な映画は世の人たちが見たいものを集めて混ぜて完成させる。
まったく個性のない作品が完成する。

監督が脚本も製作も担当して映画を作るべきだと思う。
監督が1人でショーを作り出す。
つまり監督は独裁者で僕の考えがすべてだ。
民主主義的に作品を作る必要はないと思う。
僕の目的は"自分の映画を作ること"だ。

僕にとっては脚本も監督も同じだ。
映画のために思いを込めて脚本を書く。
だから自ら脚本を書いて製作する監督が好きだ。

『ムカデ人間3』監督コメンタリーより引用


とのこと。
だからこそ、『ムカデ人間』シリーズのような尖った映画を作り出すことが出来るんですね。
興行収入とか考えずに自分の作りたいものを自分が作るから。



この監督のメッセージから、『ムカデ人間3』のビル・ボス所長はトム・シックスの自己投影…いや、『ムカデ人間3』にはトム・シックス本人が『ムカデ人間』の監督として登場するから自己投影ではない。
そう、この所長はトム・シックスの欲望の権化なのだろう。

映画における監督(独裁者)と刑務所における所長(独裁者)の双方の考え方でリンクする部分が多いように思う。


また、『ムカデ人間3』のコメンタリーで『ムカデ人間』は完結したからもう二度と作らないが、幾つか胸糞悪い映画を取った後で『ムカデ人間3』にも登場したイモムシ人間も映画として作りたいと語っています。

既に映画数本分の脚本は書き上がっているそうです。
そこから映画製作される見通しは立ってませんが、新作を早く作ってくれ、トム・シックス!



このコメンタリーで犯罪防止の抑止力に刑罰に『ムカデ人間』を推奨しながら酒を飲んで、途中でトイレに行くトム・シックスもどうかしてる。

トイレは編集でどうにかならなかったのか(笑)



トム・シックス曰く、一作目『ムカデ人間』を執筆中に三部作の映画を作ろうと思ったそうです。
その理由は
「『ムカデ映画』となるから」

ちょっと何言ってるのかわからない(笑)

二作目も三作目も前作と繋がった形を取りたかったということですね。
『ムカデ人間2』は『ムカデ人間』の最後の場面、『ムカデ人間3』も『ムカデ人間2』の最後の場面から始まってます。


そこでトム・シックスは更にこう語っています。

「いつか三部作を繋げて4時間半の超大作にしてみたい」

誰が観るんや(笑)
まあ公開されるなら観ますけども!!!



完結にして連結

今作『ムカデ人間3』は500人もの人間を全部繋げました!というおバカなコンセプトの裏には深刻な社会問題が含まれたトム・シックス監督が撮りたかった政治的に不正確な映画なんです。

以上を踏まえた上で・・・



ムカデ世界新記録樹立!

・・・やはりおバカ映画でした(笑)


一作目『ムカデ人間』では3人。


二作目『ムカデ人間2』では12人。


三作目『ムカデ人間3』では500人。



それぞれ過去作のブログ記事でムカデ人間の数の意味についても触れましたので、今回もこの500という数字について考えてみました。

『ムカデ人間』では試験的な意味もあり、3人でした。
『ムカデ人間2』では12人で、儀式的な要素があったと考えています。
※詳しくは僕のブログ記事を参照



では、今作『ムカデ人間3』では何故500人という数字に飛躍したのか?

ローマ数字で500は「D」と表記される。

1000は○に十の記号が省略されて「⊂|⊃」となった。「∞」と書いた例もあります。
最初、500は1000を表す「⊂|⊃」から左の⊂を外し、「|⊃」と表記。
やがて2つの記号がくっつき、「D」となったとされています。

つまり「∞」の半分という意味を持ち、単に膨大な数を意味していることから、囚人の数=犯罪数の多さや再犯率の高さを表しているとも考えられます。



また、エンジェルナンバーで500の意味は「人生を変える重要な変化が訪れる」
神の意志によって導かれるまま、流れに身を任せて行動しようというメッセージともなっています。


(C)2011 SIX ENTERTAINMENT

『ムカデ人間2』では"ムカデ人間を作り出す"物語『ムカデ人間』が映画として扱われ、最後の場面でマーティンが夢から目覚める所謂夢オチで完結します。

『ムカデ人間』も『ムカデ人間2』も"ムカデ人間を作る"という行動自体は創作物(映画や夢)なんですよね。


しかし、今作『ムカデ人間3』ではその"ムカデ人間を作る"という行動自体が(劇中で)現実の行動となっています。





そこでですね、この『ムカデ人間 完全連結ブルーレイBOX』に収録されている『ムカデ人間3』の幻のエンディングが素晴らしい輝きを放つんです!!!


今作『ムカデ人間3』の劇場公開版ラストシークエンスでは、『ムカデ人間』というアイデアにより刑務所の問題を解決できた。
そのアイデアを出したドワイトを射殺することで所長は手柄を横取りする。
その後で所長がムカデ人間500人を前に雄叫びを上げて幕切れとなります。



しかし、その幕切れには実は続きがありました。
これが完全連結ブルーレイBOXに収録された幻のエンディングです。


フェンスも必要なくなった刑務所でムカデ人間500人を前に雄叫びを上げる全裸のビル・ボス所長。
その雄叫びの夢から目覚めてベッドに横たわるハイター博士の姿が。
悪夢に魘されたハイター博士は翌日、車内でムカデ人間製作の構想を練るところで幕切れ。

この最後の場面は『ムカデ人間』の冒頭の場面です。
ハイター博士は『ムカデ人間3』の夢を見たから、試験的に"ムカデ人間を作る"という夢を持った。



つまり、『ムカデ人間3』の物語も全て創作物(夢)であり、『ムカデ人間』の製作者ハイター博士が"ムカデ人間を作る"前に見た夢ED。

『ムカデ人間2』は『ムカデ人間』の最後の場面、『ムカデ人間3』は『ムカデ人間2』の最後の場面、そして『ムカデ人間』は『ムカデ人間3』の最後の場面から始まっていることになる。

【ハイター博士がムカデ人間を作った映画『ムカデ人間』を観て、ムカデ人間を作った夢を見たマーティンの映画『ムカデ人間2』を観て、ムカデ人間を作った所長の夢を見たハイター博士が『ムカデ人間』を作る】
という「∞」の円環構造が出来上がる。





よって、『ムカデ人間3』のメッセージでもある再犯及び模倣犯に対する問題視を

ハイター博士(『ムカデ人間』)

マーティン(『ムカデ人間2』)

ビル所長(『ムカデ人間3』)

各主人公を通してシリーズ全体に派生していく。





『ムカデ人間』シリーズはすべて「つ・な・げ・て・み・た・い」に帰結する「ぜ・ん・ぶ・つ・な・げ・ま・し・た」。
これぞ、完結にして連結。

これがトム・シックスの言ってた『ムカデ映画』なのか(笑)
『ムカデ人間』シリーズ3作を通した一つの物語であり、超傑作ではないか!!!



終わりに

改めてお聞きすることでもないのですが、如何でしたか?(笑)



トム・シックス監督によれば
一作目『ムカデ人間』は100%医学的に正確な映画。
二作目『ムカデ人間2』は100%医学的に不正確な映画。
三作目『ムカデ人間3』は100%政治的に不正確な映画。

らしいです。



すべてを鑑賞した僕の見解では
一作目『ムカデ人間』は道徳メッセージを含んだ教育映画。
二作目『ムカデ人間2』は犯罪に対する社会派メッセージを孕む問題作。
三作目『ムカデ人間3』はアメリカの再犯率及び模倣犯を皮肉るブラックコメディ。

でした(笑)



ということで

みなさん、『ムカデ人間』の繋がりを絶やさぬ為にも、是非『ムカデ人間』シリーズを観ましょう!!!



最後までお読みくださった方、ありがとうございました。




(C)2015 SIX ENTERTAINMENT COMPANY