小羊の悲鳴は止まない

好きな映画を好きな時に好きなように語りたい。

世界に殴り込む〈和〉ホラー(『超擬態人間』感想)

目次




初めに

どうも、レクです。
お久しぶりです(定型文)。

ということで、随分とブログも放置しておりましたが、『狂覗』の監督・藤井秀剛の新作とあらば公開日初日に行くしかねえ!とずっと楽しみにしていた『超擬態人間』を観てきました。

Twitterでは語りきれないことを好き勝手に語っております。



※この記事は後半ネタバレを含みます、未鑑賞の方はご注意ください。



作品概要

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製作年︰2018年
製作国︰日本
配給︰イオンエンターテイメント
上映時間︰80分
映倫区分︰R15+


解説

「狂覗」の藤井秀剛監督が、赤子を抱える男の幽霊を描いた伊藤晴雨による幽霊画「怪談乳房榎図」に着想を得て、幼児虐待をテーマに描いたホラー。いつものように朝を迎え、目を覚ました風摩と蓮の親子は、いつもと違う異変にすぐに気が付いた。2人が目を覚ました場所、それは深い森の中だった。一方その頃、結婚式を控えたカップルと新婦の父親を乗せた車がなれない山道で方向を見失い、山中で車が故障してしまう。やがて結びつく2つの話。それが意味するのは世界崩壊の始まりだった。

超擬態人間 : 作品情報 - 映画.comより引用



ネタバレなし感想

北海道・夕張市で開催中の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019」のオフシアター・コンペティション部門でワールドプレミア上映された本作『超擬態人間』は『狂覗』同様にミヤ・サヴィーニこと宮下純さんをはじめ、俳優兼裏方として活動されていて、その団結力ある制作チームCFAを率いる藤井秀剛監督の「世界で戦いたい」という意志のもと、キャスト・スタッフともに同じ方向を向いて制作された力の入ったとんでもない作品です。



昨年、フォロワーさん主催の非公式イベント『狂覗』の絶句上映オフ会では、藤井秀剛監督はじめキャスト・スタッフの皆様と直接お会いして少しお話もさせていただきましたが、ストイックで情熱もあって、とても良い雰囲気だと感じました。

また、主演を務めておられます杉山樹志さんは2017年8月にお亡くなりになられていて、本作『超擬態人間』が遺作。
是非とも劇場へ足を運んで、杉山さんの演技を目に焼き付けてほしい。
そして、監督・キャスト・スタッフの熱意をスクリーンで感じてほしい。
というのが僕個人の願いでもあります。



さてさて、まずはネタバレなしで本作『超擬態人間』の魅力について語りたいと思っておりますが
藤井秀剛監督作『狂覗』を未鑑賞の方は、そちらもオススメです。
低予算ながら、画面から醸し出される不気味さや禍々しさ。
そして人の醜さを介し、社会の縮図として魅せる素晴らしい作品です。




本作『超擬態人間』でも『狂覗』同様に社会の縮図を見せつつブラッシュアップされたテーマがホラー演出によって際立つ。

幽霊画からの着想ということで実に日本的でインディーズ邦画ホラーとしての面白さは勿論のこと、加えて児童虐待で連想するホラー映画『ザ・チャイルド』や『悪魔のいけにえ』など、海外ホラーを彷彿とさせるようなスラッシャー描写。
和洋折衷の娯楽性を追求した笑いと恐怖が怒涛の如く押し寄せる。


日本的なもので言えば、着物や竹林、幽霊、そしてなまはげ!

「泣ぐ子(ゴ)は居ねがー」「悪い子(ゴ)は居ねがー」ってやつですね。
本作『超擬態人間』では悪い大人はたくさんいます!!!

なまはげは幼児に対する教育の手段として用いられている側面もあり、本作『超擬態人間』では悪い大人たちへの教育の一貫とも取れますね(笑)





僕がホラー映画にハマった中学生時代。
それなりに地上波放送が多く流れる中、それなりに映画を観ていた僕が映画好きになったキッカケ、映画好きの導入は実はホラー映画なんですよ。
※オールタイムベストである『羊たちの沈黙』はレンタル店でよくホラーの棚に並べられています(実際はサスペンス映画)

アメリカンホラーからジャッロ、フレンチスプラッターを経てスペインホラーと恐らくホラー映画を観る上では王道な順序を辿っていると思います。
少しズレて『◯◯・オブ・ザ・デッド』を漁った時期もありましたが。

本作『超擬態人間』を観てると、そんなホラー映画を観ている時のハラハラ感やその先の展開、特に役者陣の殺られっぷりを想像してワクワクしていたあの頃を思い出しちゃったんですよ(笑)



本作『超擬態人間』ではその予想を裏切る先の読めない展開に観客も惑わされる。
単なるスラッシャームービーでは終わらない奥深さに驚かされた。

藤井秀剛監督はジャンル映画の鬼才と言われてますが、散りばめられた暗喩はジャンルにハマらない独創性とセンスを感じます。





※以下、テーマに触れるため、ネタバレとなります。
未鑑賞の方はご注意ください。






擬態と虐待

※ここからはネタバレありの感想となります。





本作『超擬態人間』は赤子を抱える男の幽霊という日本唯一の幽霊画【怪談乳房榎図】(伊藤晴雨・画)に藤井秀剛監督が着想を得てオリジナルの物語を構築したとのこと。

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この父の幽霊には恐怖だけでなく、辛さや苦しみといった感情が重なる。
また、父の敵を討った子は視点を変えれば父親の憎しみを背負った形と言えよう。



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本作『超擬態人間』では児童虐待がテーマとしてあります。
その児童虐待の裏側には払拭できない親子関係の負の連鎖が。

息子に虐待をする主人公・丸山風摩(杉山樹志)もまた、幼少期に父親の英之(越智貴広)によって虐待されていました。
つまり、風摩もまた虐待の辛さや苦しみ、そして英之の憎しみを背負っているのです。



被害者転じて加害者へ。

加害者である英之と被害者である風摩の関係が、加害者の風摩を生み出す。
そして、加害者となった風摩は息子である蓮を被害者として追い込む。

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そう、被害者である蓮が"擬態"という能力によって加害者へと変貌する物語が、主人公・風摩が被害者から加害者へと変貌したことに繋がる。



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"擬態"とは。
天敵から身を守る為に変異すること。



虐待を受けている子供も、動物同様に何かしらの方法で我が身を守る術を会得します。
虐待されている子供の天敵は…虐待する大人たちですね。


【怪談乳房榎図】の我が子を救おうとする父親の姿は幽霊か?はたまた幻か?
我が子をひとりの人間に育てるのではなく、怪物に変えてしまう。
そんな状況になって初めて大人たちは自分の罪を悟る。
それが生きているうちか、死後かの話で。





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何度も繰り返される虐待の円環のように、ここで映画も冒頭と同じシーンへと戻ります。

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冒頭とラストのシーン。

蓮の腕に巻かれた途切れたチェーンは負の連鎖を断ち切ったことのメタファーか?



否!

本作『超擬態人間』を観ると見えてくる大人の醜さ、犠牲となる子供たち。
親に虐げられてきた蓮にとって、復讐すべき相手は"大人たち"なのだ。

彼の手に巻かれた負の連鎖はターゲットを追い込む凶器だとさえ感じてしまい、僕は思わず震え上がった。

この円環構造の裏テーマに"擬態"が身を守ることや現実逃避ではなく、強い者へと立ち向かう挑戦的な攻めへと進行していってるんです。

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待てよ?
これって、藤井秀剛監督の「世界と戦いたい」にも通ずるやん!!!

海外ホラー映画のオマージュ(謂わば"擬態")は娯楽性の追求として観客を満足させるための一つの演出。
その裏にはしっかりと「オレはこれがやりたいんだ!」という闘争本能が見える。



これに気付いた時、思わず心の中で
藤井秀剛監督、すげぇええええ!!!
と叫んでしまいました。





恐らく、このラストの解釈も如何ようにも取れるものだと思う。
藤井秀剛監督の中での答えはあるのだろうけれど、敢えてこの物語に不可解さと不明瞭さをミックスし、確信的に一つの結論として出していない。

観客が自然と問われているかのように、そして自ずと自身の解釈へと促される形になっていると思います。
その辺りも上手いなあと感心するばかりです。




終わりに

ということで、僕が本作『超擬態人間』を鑑賞し、思ったことを書かせていただきました。


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本当はホラー映画のオマージュやらその辺りも語りたかったのですが、まだ上映館も少ないため具体的な描写については語らないでおこうと考えたが故の感想でした。

マジで忖度抜きにこの映画『超擬態人間』はオススメですよ!



お読みいただいた方、ありがとうございました。



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